2021年1月23日(土)13時30分から、みらいのまちをつくる・ラボの研究成果を発表する第2回Oimachi Research Form「Withコロナ・Afterコロナ時代のまちづくりを考える」が開催されました。今回はオンラインでの開催となりましたが、日本全国から、10代~60代まで約140名の方にお申込みいただき、チャットも活用しながら活気あふれるフォーラムとなりました。以下、その要旨をレポートします。
◆オープニング(13:30~13:35)
まず慶應義塾大学総合政策学部・飯盛義徳教授から「みらいのまちをつくる・ラボ」の紹介があり、続いて大井町関係者を代表して、かんべ土地建物株式会社・神戸雄一郎社長よりご挨拶をいただきました。
「新型コロナウィルスの感染拡大で社会の変化が加速していますが、同時に人と人が交流することの大切さを改めて実感しています。私たちは人と人が交流する場をつくっていかなければなりません。大井町は昨年11月に品川区から再開発方針が発表されるなど、様々な動きが始まっています。本日の発表を今後のまちづくりに活かしていきたいと思います」
◆セッション1(13:35~14:05)
eSports for all~オンラインのつながりを目指して(環境情報学部・加藤貴明研究室)
最初のセッションは、eSportsを活用したヘルスケアと多世代交流型のまちづくりに関する研究報告です。
(1)eSports研究が目指す方向性(慶應義塾大学 加藤貴明准教授)
・いま社会はよりデジタルな方向にシフトしており、世界のeSports市場は2023年には15億ドルになると見込まれている。学術論文もポジティブなものが増えており、中でも当研究室は視覚機能(知覚・認知・記憶)の向上に注目している。特に高齢化が進む日本においては、地域密着・ヘルスケア業界・高齢者施設での活用といった研究が有望である。
・実際に大井町のラボにおいては2019年から高齢者のみなさんを対象に「健康講座」を開催し、注意機能の向上といった成果をあげている。今後はeSportsとヘルスケアを組み合わせ、子どもから高齢者まで多世代交流の場づくりでまちづくりに貢献していきたい。
(2)「健康講座」の成果(株式会社プレイケア代表 川崎陽一氏)
・国は高齢者のフレイル(虚弱)予防として“通いの場”を増やしており、いま全国に10万6000か所の施設がある。しかし高齢者の参加率は5.7%。楽しくかつ効果がなければ通ってもらえない。そこでコンテンツ開発やそれを運営できる人材育成が重要である。
・私たちは加藤研究室とともに2019年5月より、大井町のラボにて毎週2時間、体操とeSportsを組み合わせた健康講座を提供し、2020年2月までに延べ600人以上の方にご参加いただいた。確実な成果があがっているものの、全国の施設と同様、男性の参加者が少ないことが課題である。同時に、今回のコロナ禍をうけ、コンテンツのデジタル化と在宅支援が急務である。
(3)オンライン化への挑戦/環境情報学部3年の小野友生さん
・コロナ禍により大井町のラボでの健康講座の継続が困難になったことから、オンラインでの開催を検討した。まず大井町の健康講座参加者にアンケート調査を実施。44名から回答を得て、健康講座再開への期待が高く、また各家庭におけるネット環境も充実していることがわかった。
・操作補助者の有無も考慮し、1名の被験者(78歳・女性)を選定してオンライン講座を試験的に開催。2つのオンラインゲームに取り組んでもらい、ヘルスケアに有効と思われる自己効力感の変化を計測。結果としは即時に変化はみられなかったが、オンラインでも健康講座が開催できることがわかり、今後の展開に有益な示唆を得ることができた。
*セッション1への感想・意見はこちらをご覧ください。
◆セッション2 (14:05~14:35)
コミュニティとテクノロジー(総合政策学部 飯盛義徳研究室)
続いて、地域の課題解決のヒントをコミュニティとテクノロジーをキーワードに探究するパネルディスカッションが行われました。
<パネラー>
荒川剛氏/パナソニック株式会社SST推進総括担当、Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン)マネジメント株式会社 代表取締役社長
坂倉杏介氏/東京都市大学都市生活学部准教授
<コーディネータ>
飯盛義徳/慶應義塾大学総合政策学部教授
(以下敬称略)
飯盛:まずテクノロジーをいかした最先端の街づくりをされているFujisawa SSTの荒川さんから自己紹介とコロナ禍のコミュニティの状況をお聞かせください。
荒川:Fujisawa SSTは、神奈川県藤沢市に位置する住宅中心の複合施設です。すでに2000人超が居住し、パナソニックをはじめとする18の企業と、住民、自治体、大学のコミュニティ醸成で、新たなテクノロジーの社会実装に挑戦しています。コロナ禍で自治会のバーチャル化など新たな手法を模索する一方、社会からのイノベーションに対する期待の高まりを感じています。
飯盛:続いてコミュニティづくりの全国的な成功事例である「芝の家」(東京都港区)を運営されている坂倉さん、お願いします。
坂倉:私の専門はコミュニティマネジメントで、人と人とのつながりを増やすことで、生き心地のよい地域を作っていくことを実践的に研究しています。「芝の家」では緊急事態宣言下で一時活動を停止していましたが、いまはオンラインやオープンエアでの活動が始まっています。やはり人は動いていた方がいい。人と人が出会うことで何かが生まれ、変化にも強いコミュニティが作られていきます。それを支えるのがテクノロジーで、両者は共に進化していくと捉えています。また尾山台(東京都世田谷区)ではさまざまな社会課題をコミュニティという場でテクノロジーを活用して解決していく「リビングラボ」という活動をしており、ここに新しいまちづくりの視座があると考えています。
飯盛:コミュニティとテクノロジーの関係について、荒川さんはどのようにお考えになりますか?
荒川:Fujisawa SSTでは住民のみなさんの協力をいただいて、スマートデバイスを使ったQolの可視化や、自律配送ロボットの実証実験などを行っていますが、みなさん「自分が実験台になって住みやすい街ができるなら喜んで協力する」と言ってくれています。テクノロジーはコミュニティの進化に役立ちますし、テクノロジーの実装にはコミュニティの協力が不可欠で相互作用があります。そして技術を持つ企業、高度な知識を持つ大学、規制緩和に積極的な自治体、受容性の高い住民が一体となった「共創するコミュニティ」を生み出すことが重要で、大学こそがそれぞれを橋渡しできる要なのではないでしょうか。
坂倉:共感します。企業も大学も自治体も一緒にやっていくことは不可欠ですし、コミュニティの運営も問われています。これまで通りの安定した組織運営だけではイノベーションが生まれない。いろんな人と出会えて動いている状態、創発的なコミュニティが重要ではないでしょうか。
飯盛:テクノロジーの実装にはコミュニティの協力が不可欠、創発的なコミュニティが重要というキーワードがでました。そういった協働、創発を引き出すにはプラットフォームという概念が役立ちます。その設計には①空間のデザイン(新しいつながりが次々と生まれるようにする)②コンテンツのデザイン(参加障壁が低くインセンティブが持てる。対等性を担保)③マネジメントのデザイン(資源を持ち寄り、参加者の主体性を引き出す)が重要であり、ここでICTをうまく活用するという発想が必要となります。テクノロジーを使うことで、コミュニティの内と外、コミュニティ同士をつなぐことも可能となってきますし、これからはそういう場づくりができる人材が求められていくといえるでしょう。
*セッション2への感想・意見はこちらをご覧ください。
◆セッション3 (14:35~15:05)
2つの日常を生き抜くために(環境情報学部 厳網林研究室)
このセッションでは、ウィズコロナによる日常の変化をとらえたうえで、アフターコロナの大井町のまちづくりを考えました。
(1)ウィズコロナを生き抜くために(慶應義塾大学 厳網林教授)
・この1年で「日常」はどう変化したのか。なぜコロナの先が見えないのか。大井町を中心に都内近郊の駅や公園、喫煙所でのマスク着用率や行動観察、商店街や店舗、公共の場での掲示物や消毒液の設置状況などを調査した。
・その結果わかったことは、個人としては春夏秋冬でマスクにも慣れ、感染対策を徹底できたが、公共の場では必ずしも徹底されておらず、それが「ウィズコロナ」を長引かせているということである。コロナは待てば消えるものではなく、あらゆるリスクを考え、感染防止を徹底しなければ「アフターコロナ」はこない。
(2)アフターコロナを抜く生き抜くために(慶應義塾大学 厳網林教授/環境情報学部2年春日裕信さん、4年高尾颯さん)
・日常は災いがあるたびに奪われ、やがて新しい生活が生まれていく。どこに目標を置くのかはそれぞれのまちによって異なる。大井町も災いのたびに生まれ変わってきた。現在進行中の再開発も、アフターコロナのニューノーマル(オフィスの都心撤退、個人の二拠点居住など)に適合しているか考える必要がある。つまり未来を見据えたまちづくりが重要だ。
・私たちは2019年に国際ワークショップを開催し、大井町の未来の姿をデザインした。それは新規の大規模開発による激変と従来街区の緩やかな更新構造を刺激しあい、これからの都市に必要な食料・水・エネルギーの生産、消費、販売、交流の循環型生態系を形成し、住みやすく、働きやすいまちである。
・アフターコロナはまち全体の歩行環境、自転車環境の整備も重要である。大井町の現状を調査すると、歩行量が集中する個所の存在、歩道・自転車専用レーンの少なさ、段差や放置自転車などによる危険性など、さまざまな課題があることがわかった。
・大規模開発は、まち全体を考え直すきかっけになる。私たちはデザインワークショップと現地調査をふまえ、水と緑と食料エネルギーをネットワークにして、Walkability、Cyclablityをより高めて地域全体をつないでいくことをビジョンにしている。大井町には資産とチャンスがある。みんながともに考え行動することで、次世代を担うまちになれるだろう。
*セッション③への感想・意見はこちらをご覧ください。
◆セッション4(15:05~15:30)
コミュニティづくりのいま~オンラインワークショップの可能性(総合政策学部・宮垣元研究室)
4つめのセッションは「大井町コミュニティキャンパスプロジェクト」で行われている、新しい時代のコミュニティづくりに関する研究報告です。
(1)大井町コミュニティキャンパスプロジェクトとは(慶應義塾大学 宮垣元教授)
・本プロジェクトは、新しい時代のコミュニティづくりの要諦を、多様な人びとが立場を越えて学びあうことで相互変容するプロセスにあると捉え、その実現可能性、持続可能性の高いあり方を導出することを目指している。ハード(空間)と、ソフト(学びのテーマ)の両面からのアプローチで進めている。
・空間づくりにおいては、建築家の長岡勉氏とともに「アクティブマテリアル」を開発している。昨年は会議室などの無機的な空間を、多種多様なコミュニティ活動ができる空間に変えることができるアイテムを開発した。室内に集うことが難しくなった今年は、屋外でちょっとした集いができるようになる「屋台」(通称パタパタ)を開発している。
・学びのテーマについては、「45歳からの起業」というテーマで関心ある人びとの学び合いによるライフシフトの可能性について、「多世代シェアハウス」というテーマで育児のようなケアをともに行える可能性についてを題材に、幅広いネットワークを構築してきた。「地域連携教育」でも地元の生徒と企業をつなぎ地域が教育に関わっていくしくみを検討し始めている。
(2)45歳からの起業研究会報告(慶應義塾大学SFC研究所 河野純子上席所員)
・「45歳からの起業研究会」は、セカンドキャリアに悩む中高年会社員を対象に「起業という選択」について学びあう研究会である。昨年度は大井町のラボの場を使って、ロールモデルを招いたセミナーやワークショップを開催し好評を得た。今年度はすべてオンラインに切り替えている。
・オンライン開催で得られた気づきは3点。①参加者の多様性が広がった。居住地はもちろん、年齢や職業の幅も広がった。また帰宅時間を気にせずに参加できることから女性参加者も多かった。②自宅からの参加というリラックスした雰囲気の中で、率直な意見交換がなされ豊かな交流が実現した。また③会社以外の多様な人やロールモデルと出会える場としての満足度も高く、今後もオンラインを活用して活動を継続していく。
(3)多世代型シェアハウス研究会報告(慶應義塾大学SFC研究所 福澤涼子上席所員)
・2世代以上が一緒に暮らすシェアハウスを「多世代型シェアハウス」と呼ぶ。主に育児をしているシェアハウスを研究対象とし、その居住者をゲストに招いた勉強会を通じて、実態、価値、課題を広く言語化していく。今年度は6回の勉強会をすべてオンラインで開催した。
・オンライン勉強会の特徴として3点、報告する。①参加者の多様性(エリアや年代の垣根のない参加者が得られた。またオフラインでは参加しにくい育児従事者の参加もあった)②多様なコミュニケーション(チャットを通じた初対面同士の共助関係がみられた。また勉強会終了後に自由に話す「放課後タイム」が生まれた③コミュニティへと発展(オフラインでの交流や連続参加者の増加がみられた)。
*セッション4への感想・意見はこちらをご覧ください。
◆セッション5(15:30~15:50)
都市のマイクロバイオーム~人の移動による感染症拡大に着目して(環境情報学部 鈴木治夫准教授)
最後のセッションでは、新型コロナウイルスのパンデミックで関心が高まっている都市の微生物に関する研究です。
(1)微生物とその研究方法
マイクロバイオームとは微生物群集とその遺伝子の総体を指し、ウイルスやバクテリア、カビの研究なども含まれる。肉眼では観察できないため、①顕微鏡で観察する②栄養をあたえて増殖させて調べる③DNA/RNA配列を直接測定する方法がある。③のデジタルデータを分析することで、微生物の進化と伝播経路がわかる。例えば、大腸菌と納豆菌に比べ、ヒトとトウモロコシはより近い。新型コロナウイルスも同様の方法で研究が進んでいる。
(2)薬剤耐性
いま世界的に問題となっているのが、薬の効かない薬剤耐性菌の増加である。背景には、抗生物質の誤った使用がある。2013年には薬剤耐性菌によって世界で年間70万人が亡くなっており、このままでは2050年には年間1000万人が亡くなる。これはガンの死亡者よりも多い。国内でも年間8,000人が亡くなっている。この世界的な広がりは、人の移動が原因である。
(3)人工環境
人工環境とは、病院、駅、公共交通機関など不特定多数の人が集まる場所を指し、そこで微生物の交換が起きることから、2010年以降盛んに研究が行われている。総説としては、人工環境の微生物の多様性を保つことが、病原体の相対量を下げ、感染リスクを軽減することにつながる。そのためにはペットや植物を置く(動物や植物由来の微生物を増やす)、湿度40~60%を保つ、機械ではなく自然換気を行う、太陽光を入れるなどが有効であり、これらの知見は新型コロナウイルス感染対策として活用されている。
(4)国際コンソーシアムMetaSUB
各都市の微生物研究を相互比較できるように研究方式を標準化したのが、私も参加する国際コンソーシアムMetaSUBである。現在、世界60都市から4000サンプルが集まり、60都市に共通する30種類の微生物を発見した。一方で都市間の違いも明らかになっており、例えば検出された薬剤耐性遺伝子はハノイやリオデジャネイロで多く、ストックホルムやサクラメント、ソウル、パリは少ない。また日本には欧米と共通するウイルスが多く、人やモノの移動で運ばれていることがわかる。世界的な人の移動を伴うイベントは興味深く、東京五輪前後でサンプリングを行う計画だったが、現在は逆にヒトの移動が激減したことによる微生物の変化を調べている。今後も大井町を含む日本全国の都市でサンプリングを続けることによって、次なる感染症の対策がとれるようにしていきたい。
*セッション5への感想・意見はこちらをご覧ください。
◆質疑応答&クロージング (15:50~16:00)
このあとは、チャットに寄せられた質問への回答、発表者同士によるディスカッションがあり、クロージングとなりました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
◆参加者アンケートより
終了後に寄せられたOimachi Research Form全体への感想、今後の期待をご紹介します。
・短い時間の中で多様な切り口から話題提供があり、運営される方は大変だったと思いますが、聞いている側は間延びせず、常に新鮮な気持ちで聞くことができました。また、企業や住民、行政とのコラボレーションが充実しており、研究機関としての存在感が感じられました。これからの地方におけるまちづくりも、研究機関を核に、様々な主体の連携による取り組みが期待できると思います。
・事前の案内もわかりやすく、良かったです。時間的には長いですがやはり必要な分量だと思いました。ありがとうございました。
・時間配分等適切だと思います。内容が多岐にわたるので資料抜粋がダウンロードできるとわかりやすいと思います。
・リモートによる研究発表会、YouTubeによる適宜視聴ができてとても良かったです。
・別のオンラインイベントと重なっていたので、全てをLiveでは視聴できませんでしたが、youtubeに残っていたので、遅れて視聴できたのが良かったです。
・オンラインならではの運営の難しさがあったかと思いますが、受講している中で大きな問題はありませんでした。
・大変参考になる点の多い発表会でした。you tubeでみると見にくい点があるので、全体の資料等可能な限り提供いただけると理解度が増すと思います。
・芝の家の取り組みを地方でも進めたいと思います。アフターコロナのまちづくりにも、新機軸を御提案頂きたいです。
・まさに、ラボですね!未完成の技術や考え方を受け入れるコミュニティが必要とのご意見に共感しました。
・また開催してほしいです。
・コロナ禍によりオンライン会議やセミナーが推奨されたことは、地方に住む者には参加の機会が広がり、この点だけはありがたく思います。今後もこうしたセミナ ーの機会をつくっていただければうれしいです。
・ありがとうございました。丁度息子世代ということもありますが このラボに関わった学生さんたちが「住みたい!」と思える大井町になっていくといいなあと思います!
・さらに研究を深めていただくことと、「FMおおいまち」のように地元の人の声を反映した参加型プロジェクトを期待します。
・素晴らしい研究活動だと思います。大井町で継続されることを期待します。
・友人の紹介で初めて受講しましたが、本当に興味深いお話でした。また参加したいと思います。
・今コロナで、なかなか利用できないのかと思いますが、eスポ ーツスタジオの中は入ったことがなく、いつか利用しているところを見学したいです。
・斬新な視点での大井町の街づくりへの寄与を期待します。
・SFCの卒業生です。研究テーマに非常に興味があったので参加させていただきました。SFCらしく、どの分野も一歩前を見据えた研究をされていて、大変感心いたしました。仕事柄、まちづくりのソフトのジャンルを開拓しており、機会があればSFCと連携できればと思っております。益々のご発展を期待しております。
◆参加者プロフィール