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大井町コミュニティキャンパスプロジェクは、2020年12月10日(木)20時から、多世代型シェアハウス研究会の第6回勉強会『シェアハウスで育つということ〜映画『沈没家族』から考える』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。今回は映画『沈没家族 劇場版』の監督で、同タイトルの著書も出版された加納土さんをゲストにお招きして、当時の生活を振り返ってもらいました。また後半は現在育児をしながらシェアハウスで暮らす「東京フルハウス」栗山夫妻をお招きして、パネルディスカッション形式でお話しいただきました。

*沈没家族
今回の勉強会のゲスト、加納土さん(写真右)監督の映画。自身が幼少期(1〜8歳まで)を過ごしたシェアハウスに関するドキュメンタリームービーで、加藤さんの大学の卒業制作として撮影されました。2017年のPFFぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞、「劇場版」が公開されています。

■一部:加納土さんインタビュー(インタビュアー/福澤)
まず書籍『沈没家族』を参考にしながら、多様な価値観の中で育つということは、どういうことだったのか?を加納さんにお伺いしました。
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福澤:例えば著書を読んでいると、多様な価値観の中で、幼い土さんが自分自身の価値観を選び取っていく様が伺えました。実際は、どうだったのでしょうか?

加納さん:まず前提として、穂子さん(加納土さんのお母様)が関わる人に対して、ベビーシッター的な関係で関わって欲しいのではないと訴えていたんですよね。みんなそれぞれの価値観で関わって欲しいと言っていた。だから、最初はかなり面倒でしたけどね、テーブルマナーとかもね、全然違うので。「どっちやねん」って言うことが度々ありました(笑)。
けど、徐々にですがこの人はこういう価値観で、この人はこういう価値観なんだってわかっていった感覚があった。それで、うまく対応できていったんですよね。その中で、もちろん、合わない人もいたけど、別に大勢の人がいたから無理して価値観を合わせる必要もないということも感じたし。
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以上のように、シェアハウスでの生活により、「価値観は人それぞれなんだ」という、人付き合いにおいて非常に重要な前提条件のようなものを、幼少期から肌で感じられていたのだと思います。

■二部:パネルディスカッション(パネラー/東京フルハウス栗山夫妻)
続いては、現在「東京フルハウス」というシェアハウスで育児をしている栗山夫妻とのディスカッションです。「シェアハウスで育児をすることは、子どもに愛情をかけていないことなのか?」という点が、議論されました。

栗山さん:現代の親、特に母親というのは、自分の時間が欲しいけど、オープンには言えないというのがあると感じているんですよね。四六時中、子どもと一緒にして可愛がっているのが、良い親だというそんな価値観があるように感じている。けど一方で、穂子さんみたいにある程度、「私も自分の時間が欲しい」というのを素直に出していくと、子どもとしても「親も1人の人間なんだな」と思えたりしそうじゃないですか。けど、育児シェアハウスをしていると、やらなきゃいけない育児を放棄していると批判されることもあったり、そんな空気を感じることがある。

福澤:私も、この勉強会の前に色々育児に関する本を読むと、母子密着が重要であるとする研究もあって。大勢の中で育児をするのには否定的な意見が、中には見られました。その点では、シェアハウスで育児をすることは、愛情不足という風にも捉えられます。実際、育った側としてはどうお感じになられていますか?

加納さん:愛情という意味では、めっちゃ受けたなと思います。穂子さんと会えなかったから、寂しさがあったとかはない。むしろ保育ノート見てても真剣に議論してくれている様子が伺えるし。あと、むしろ穂子さんはシングルマザーで21歳で経済的にも厳しくて、自分1人では無理だと認識していた、それでビラを書いて助けを求めた、そのことこそが最大の愛情を感じているんですよね。

栗山さん:僕もそう考えているんです。シェアハウスでの育児は、ちゃんと考えた末でないとできない。かなり面倒ですもん。僕たちは育児をするためにシェアハウスをしているわけではないけど、それなりにちゃんと考えていないと、シェアハウスで育児なんてしない。だからね、きっと大丈夫だと思うんですよ。

加納さん:うんうん。シェアハウスで育とうが核家族で育とうが、運みたいなことこが大きいと思うんですよ。どんな環境で育っても子供がどうなるかなんてわからない。シェアハウスで育った僕たちだって、いろんな人生歩んできたし、それこそ週末は父親との生活があって、八丈島での生活があったり、とにかくいろんなレイヤーがあって。だから、シェアハウスでの生活と今の自分を、過剰に結びつけてないんですよね。色々あったけどそのうちの1つだよね。あの生活のおかげで今があるとも思わないし、あのせいで、今こうなっちゃったとも思わない。シェアハウスという環境で育ったからって、将来どうなるかなんて、明確にはわからないですよ。

■勉強会を終えて(福澤涼子)
今回のゲストは、シェアハウスで育った加納土さんでした。シェアハウスは2010年代以降、急速に増えた住まいだとすると、育った方(しかも大人)とお話しさせていただくのは、非常に貴重な機会だったように思います。中でも、実際いまシェアハウスで育児をしている栗山夫妻が、「シェアハウスでの育児は愛情不足なのか」といった疑問点を加納さんにぶつけ「(愛情は)めっちゃ受けたなと思います」と回答したところが非常に印象的でした。

■参加者アンケートより(一部抜粋)
本日の勉強会で最も印象に残ったことはどんなことですか?何か気づきや学びはありましたか?具体的にお聞かせください。

・シェアハウスで子育てしている人が案外沢山いる事に、客観的に気づきました(周囲には何組もいるのですが)
・シェアハウスで子供が育つと、空気を読み過ぎる性格になるのではないかと感じました。自分の価値観を主軸に置いて、シェアハウスで生活するのは面白いですが、自分の価値観が形成されていない時期にシェアハウスで生活をすると「自分」が分からなくなるのかなと感じました。
・シェアハウスで子育てをしている栗山さんが、土さんの話を聞いて「自信が持てた」と話していたこと。

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