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大井町コミュニティキャンパスプロジェクは、2月26日(金)20時から、多世代型シェアハウス研究会の第7回勉強会『シェアハウスを育むプロセス~みかんハウスの実践』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。今回はみかんハウスの運営者であり、上智大学教授の川西諭さんをゲストにお招きして、多世代型シェアハウスの立ち上げから現在までのエピソードや苦労した点などをざっくばらんにお話しいただきました。

*みかんハウス(写真左)
千葉県松戸市常盤平にある木造2階建てのシェアハウス 。8〜9世帯が暮らす。平成26年竣工。現在では、幼児含めた親子も暮らす多世代型のシェアハウスである。
*ゲスト川西諭さん(写真右)
上智大学経済学部教授。専門は行動経済学。親族の持っていた老朽化したアパートを改装し、シェアハウス「みかんハウス」をオープン。以来、その運営にも関わっている。

■トークセッション
非常に多くの有意義なお話をいただきました。ここでは当日の内容から、いくつかのエッセンスをご紹介します。

人とのつながりが持つ価値:面倒だけど大事。運動のようなものである
川西さんが『みかんハウス』というシェアハウスを作った背景の一つに、このつながりが持つ価値を意識し、その価値を生み出そうとした点がありました。
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川西さん:人間関係とか、人とのつながりって面倒くさくなるんですけど、心理学の方達と研究していて、やはりつながりって大事なんですよね。つながりがないと、健康が損なうとか、寿命が短くなる。だから、私は人とのつながりは運動と一緒だと思う。運動も面倒だけど、大事だよねというのと大事。人とのつながりも大事なのだけど、なくなってしまうし、寂しいし、孤独感というのが最も健康に悪いのでね。
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川西さんは、イギリスでのシェアハウス生活と、そして、日本での長い一人暮らしで孤独を感じ、人とのつながりの価値をご自身でも実感していたということでした。確かに「シェアハウス」はひとり暮らしや家族のみの暮らしと比較して、面倒なことも多いとは思います。ですが、「面倒だけど大事」。「その価値は運動に近い」という例えは、勉強会参加者も非常に納得しているようでした。

シェアハウス+住み開きの相性は?
みかんハウスは、地域に開かれた「パブリックコモンスペース」を持つシェアハウスという点でも特徴的です。一見すると、シェアハウスを地域に開こうとする試みは相性が良いようにも見えますが、実際はなかなか難しさもあるという話が聞かれました。
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川西さん:まぁすごく上手くいっているかというと微妙なところですね。僕はシェアハウスに住む人たちって、いろんな人たちと関わるのが好きかなと思っていたので、住み開きも受け入れてくれるかなぁと思ったのですが。

住んでいる人たち同士とは仲良くやっていたいという気持ちはあっても、外との関わりはそこまで求めてはないかもですね。僕がやったピザパーティや哲学カフェなどの地域に開かれたイベントも、みんながノリノリで参加したいという感じではなく。見ていると、静かに生活したいのかなぁと思ったり。。聞いてショックを受けるのも嫌なので聞いていないですけどね(笑)
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同じく、コモンスペースを持つシェアハウス『コトナハウス』を運営する鈴木さんからも、活用について試行錯誤中だという話が聞かれ、参加者からも「シェアハウスに住むことと近所づきあいとは別もののようですね」との感想が寄せられました。

シェアハウスを育むプロセス
満室になるまで3年以上かかったというみかんハウス。最初の3年は人間関係のトラブルで、退去が相次ぎ、川西先生は運営者として相当な苦労をした様子でした。
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川西さん:最初の時には気がつかなかったんですよ。みんな仲良くやっているのかなって、勝手に思っていて。当時(設立当初)は、対処方法がわからなかったですから。今もね、人それぞれなので、完璧な対応なんてないのですが、最初に始めた時と比べれば自分の対応力が上がったというのはある。
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そして、この間でシェアハウス運営に関して学んだことの一部をご紹介いただきました。一つは、「全員での話し合いは難しい」ということ。みかんハウスも最初は話し合いの場を設けていたそうですが、結局は不満を言う場になってしまうなどして、かえって関係性が悪化することになったり、賛成でないのにそれが言えずに抱えてしまう人が出てしまう。そうではなく、個別に話すなど様々なコミュニケーション方法で個別対応した方が、上手く回っていくということがわかったそうです。

また、京都府立大学名誉教授の上野勝代先生から、北欧のシェア住居で入居者にお願いしている項目を教えてもらい、みかんハウスでも運営の参考にされているそうです。それが以下の4つの項目。『①忍耐力(寛容さ)②ユーモア ③話を聞く力 ④交流したい気持ち』です。中でも、川西さんは「①忍耐力」を「寛容さ」に置き換えて、耐えるというニュアンスよりも、不満を溜めない寛容さを持つことがシェアハウスでは重要だと考えられているとのことでした。

その後、質疑応答の時間でも、多くの質問が寄せられて、一つ一つ丁寧に回答いただき、大盛況でイベントは終了しました。

■勉強会を終えて(主催者/福澤涼子)
今回、何より印象的だったのは、大学の教授であっても、シェアハウスの運営には相当苦労されていたという点です。それだけシェアハウスでの生活とその運営は、個別性が高く、複雑で面倒であるということだと感じました。しかし、一方で現代のプライベートに閉じられた生活様式ではなかなか生み出されない「つながることの価値」を生んでいることも事実でしょう。その複雑や面倒なことを一つ一つ乗り越えていくことで、運営者として、住人個人として、そしてシェアハウス全体として成長していき、安定した生活運営へとつながっていく、それがシェアハウスを育むプロセスなのだろうと感じました。

■アンケート結果
寄せられたアンケート結果の一部を紹介します。
・多世代シェアハウスは現実的にはいろいろ問題があるのが分かりました。 まず入居者を集めるときから大変なのですね。そして、そのハウスの意図やルールは理解してもらった上でも、そこからスタートし、人間関係を育んでいくのですから。 やはり、子どもの存在は大きいと思いました。 子どもを囲み、そこに関わる大人同士が子どもと共に成長していくという感じでしょうか。 初めは大変かもしれませんが楽しそう! 楽しもう!と思える人を募集したいですね。

・多世代共生、地域に開かれたシェアハウスの理想と現実に納得しました。シェアハウスに住みたい人=地域とのふれあいを求めている人とは限らない。長い年月をかけてコミュニティを育むという視点が必要なのだと思いました。一つ目は「寛容さ」ですね。戸建てと団地という規模やスタイルの違いはありますが、シェアを運営する者として、激しく同意する悩みや気付きでした。みんなが持ってる価値観や当たり前の基準はそれぞれ違うもんなんだということを、理解して、調整していけることが、シェアでの暮らしをうまくやっていける人の特徴でもあるし、運営する側としても大切なことだなあと感じています。 二つ目は「対応力」です。お話を聞いていて、入居者の苦情などへの対応力もありますが、その時々の入居者がつくる場への我々の対応力が試されているのかなあと感じました。その時に暮らしている入居者さんたちによって、ハウスの雰囲気は違ってきて、それをこちらの描く雰囲気に無理にもっていくよりも、流れに任せた方が入居者さんたちの色が出ておもしろいのかなと。こちらが思い描いたような形にするのはなかなか難しいということへのあきらめにも似ているかもしれません(笑)。 長々とすみません。

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