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慶應義塾大学SFC研究所みらいのまちをつくる・ラボは、その研究成果の社会への還元を目的に、2024年3月9日(土)13時から第5回 Oimachi Research Forumを開催しました。ラボに参加する様々な分野の研究者が大井町に集い、8つのセッションをオンラインでお届けしました。みらいのまちづくりに関心を持つ高校生から60代のシニアまで、約100人の方が視聴され、多くの意見が寄せられました。以下、その概要と参加者の声をレポートします。


(写真左から)飯盛義徳教授、伴英美子上席所員、厳網林教授、宮垣元教授、加藤貴昭教授、鈴木治夫准教授(スクリーン内)石川初教授

◆セッション1「子ども世代を中心とした多世代の居場所づくり」(伴英美子 SFC研究所上席所員・飯盛義徳 教授)

オープニングセッションは、当ラボ代表の飯盛義徳教授編著による書籍『場づくりから始める地域づくり~創発を生むプラットフォームのつくり方』(学芸出版社)に収録された「ゆがわらっこと多世代の居場所」(神奈川県湯が原町)の成果報告です。運営母体である一般社団法人ユガラボの理事も務める伴英美子上席所員が登壇しました。子どもたちの「安心してありのままでいられる場所がほしい」という願いから2016年に生まれたこの居場所は、行政と協力することで活動を維持し、参加している子どもたちの「自己肯定感」が向上するなど大きな成果をあげています。また居場所の卒業生が現在はスタッフとして運営にかかわり、第2の居場所も生まれていることが報告されました。

(参加者の声)
・スタートしても、持続していくのが難しい中、行政と協力し、継続、発展をされていて、この居場所で育った方が運営側になるなど、よいループができているのは、良いと思います。大井町でこのような場所をぜひ展開したいと思いました。

◆セッション2 学生とまちづくり 「大井町元気プロジェクト」活動報告(飯盛義徳研究会)

「大井町元気プロジェクト」は、学生が大井町の非営利組織や企業などと連携しながら、大井町の中心市街地の魅力や資源を再発見し、課題解決策につなげることを目的としています。本セッションでは、まず「メディア班」がFMしながわで放送しているラジオ番組「みらいの大井町をつくる・ラボ」の報告を行いました。番組の目玉は、大井町で活動する起業家や店舗オーナーなどへのインタビュー。学生ならではの視点で大井町のみらいを探っています。続いて「創造班」は荏原町商店街での「ハロウィンイベント」での取り組みを発表。最後に大井町駅前の「PARK COFFEE」での交流促進のための取り組みを発表しました。

(参加者の声)
・学生の皆さんが自分で情報を集めてラジオを作り上げていくことや、現場に足を運んで商店街との関わりを持ち商店街を盛り上げている事を知り行動力の凄さに驚きました。

◆セッション3 大井町ランドウォーク(石川初研究会)

ランドスケープデザインが専門の石川初教授は、大井町の魅力を探る方法を開発し、その潜在的な可能性を引き出すことを目的として2023年10月にラボに参加。まずは学生メンバーとともに大井町周辺を知るためのフィールドワークを実施しました。その結果、旧市街地と埋立地で大きく異なる大井町の個性を、内陸から海岸へと移動しながら観察する「バーコード街歩き」を開発。また駅前の谷を形作り地域をつなぐ立会川に着目し、「立会川下り街歩き」の可能性を報告しました。2024年度の計画として、こういった歩行によって街の魅力を味わうためのルートマップの作成や、立会川沿いに点在するオープンスペースをつなぐ実証実験、その1つでもある大井町駅前広場への提案を行っていくことを発表しました。

(参加者の声)
・普段意識することのない切り口での分析で、非常に興味深かった。色々な地域で応用できるように感じた。
・地域住民として、歴史、地政、文化などをベースとした研究成果が興味深いです。

◆セッション4 歩きやすい・住みやすいスマートシティ大井町を目指して(厳網林研究会)

厳網林研究会では、大井町のみらい像として「CAPA.CITY~余裕都市」を掲げ、「歩きたくなるまち・歩きやすいまち」をキーワードに「観察→点検→測定→デザイン→情報共有」という共創型のまちづくり手法で研究を重ねています。本セッションでは厳教授からの概略の説明のあとに、岸本慧大さん(政策・メディア研究科博士課程)が「人流ビックデータを用いた”居心地がよく歩きたくなる“まちなかの要素検証の試み」。続いて濱口夏冴さん(総合政策学部4年)が「大井町らしさを生かしたまちづくりの考察」を発表し、「大井町らしさとは都会なのに温かい」との結論を導き出しました。大久保凌さん(総合政策学部4年)は「人と事故から見るウォーカビリティの観点での道路環境・大井町駅周辺道路を事例とした分析」を発表。交通事故減少策として「シェアドスペース」を提案しました。

(参加者の声)
・人流データのアウトプットによるファクトが非常に分かりやすかった。
・「大井町らしさ」については住民も答えに困っているため、研究成果が印象に残りました。
・シェアスペース、早速実証実験等始めて頂けないでしょうか。

◆セッション5 私たちの身の回りの微生物(鈴木治夫研究会)

鈴木治夫研究会では、駅などの都市の建築環境に存在する微生物(細菌、ウィルス)のDNA配列の解析を、バイオインフォマティクス (生物情報学)という方法を用いて行っています。本セッションではまず鈴木准教授が、微生物研究は健康な都市・建築デザインや感染症対策に役立つこと、そして大井町駅などで微生物のサンプルを採取した結果、駅にはヒト由来の微生物DNAが存在することなどを報告しました。続いてバイオインフォマティクスを活用した研究事例として、黄麗安さん(環境情報学部4年)が脳神経科学の研究を、讃井彩夏さん(環境情報学部3年)がウィルスの研究を発表しました。

(参加者の声)
・身の回りにあれほど多くの微生物がいることに驚いた。DNAによる分析も興味深かった。
・今まで微生物がまちに影響する可能性があるということを考えたことがなかったので新鮮だった。

◆セッション6 「暮らす」と「学ぶ」を分かち合う(宮垣元研究会)

宮垣元研究会では、「みらいのまちづくり」を「新しい時代のコミュニティづくり」と捉え、ハード(空間)と、ソフト(仕掛け)の2つのアプローチでさまざまな研究活動を行っています。本セッションでは宮垣教授からの概要説明ののち、醍醐身奈さん(SFC研究所上席所員)が「探究学習研究会」で実施した品川区立立会小学校での探究学習の様子を報告。「地域や社会の課題を解決する」という共通の目的が、世代や立場を超えた関係性構築に寄与することを示唆しました。続いて福澤涼子さん(SFC研究所上席所員)が「多世代型シェアハウス研究会」で実施した2事例のフィールドワークの結果を報告。「家族より大きく地域より小さなコミュニティ」の可能性などを示唆しました。

(参加者の声)
・共通の目的があることで多世代のつながりが図れることは、小学生の心の拠り所が生まれるきっかけにもなるのではないかと思い興味が湧きました。
・多世代型シェアハウス研究会の発表では近所付き合いの希薄化という問題について考えさせられました。

◆セッション7 みんなのeスポーツを目指して(加藤貴昭研究会)

加藤貴昭研究会では、eスポーツの可能性を、「健康」と「教育」というアプローチから研究しています。まず加藤教授が、2023年にシンガポールで開催されたeスポーツのオリンピックなど最新のeスポーツをめぐるトピックを紹介。続いて日本アクティビティ協会の川崎陽一さんが、社会参加寿命の延伸を目指したeスポーツ活用事例、特に厚生省が主催する「ねんりんピック」でeスポーツが採用されたことから、各自治体での取り組みが進んでいることを報告しました。研究会の学生は、品川学藝高校eスポーツエデュケーションコースの高校生と実施した、大井どんたく祭りでの体験イベントの結果を発表。教育現場でのeスポーツ活用が幅広い年代のゲームへの印象改善につながることを報告しました。

(参加者の声)
・目指そうとしていうところがとにかく素晴らしいです。
・eスポーツと健康というのはよく耳にするものの、ここまで広く活動が進んでいるとは知らなかった。自社の業務展開においても非常に参考になった。

◆研究者対談(各研究会)

最後に、登壇者による座談会が開催されました。今年度の研究成果については、幅広い研究分野・異なる手法からの発表に研究者自身も刺激を受けた、今回は多くの学生も登壇し活動の幅が広がったとの意見がありました。今後に向けては、あらためて住まう人、集う人が交差し、地形的にも街並み的にも貴重なフィールドである大井町から、SFCらしく研究分野を横断した多様なアプローチで「新しい知」を創造していきたいとの意欲が示されました。

(参加者の声)
・異なる分野を研究されていらっしゃる教授が大井町のラボという一つの場にいらっしゃる事が珍しく分野に縛られずに学べるSFCだからこそ実現できた会なのだと思っていました。
・研究室の年度成果と次年度の研究計画の発表の場として、とても良い企画です。学生の発表の場として今後も期待しています。住民の意見も参考反映して実効性のある研究になることを楽しみにしています。

レポートは以上です。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

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みらいのまちをつくる・ラボ > トピックス > 【レポート】第5回 Oimachi Research Forum~慶應義塾大学SFC研究所みらいのまちをつくる・ラボ オンライン研究発表会