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大井町コミュニティキャンパスプロジェクトは、9月18日(土)10時から、多世代型シェアハウス研究会の第9回『ケアの共助〜シングルマザーシェアハウス のくらし〜』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。ゲストに複数のシングルマザーを対象としたシェアハウスを運営している「シングルズキッズ株式会社」の代表である山中 真奈さんをお招きして、そのコンセプトや実態、取り組みについてお話を伺いました。

【勉強会概要】
日時:2021年9月18日(土)10:00~11:30
開催方法:オンライン(Zoom)
参加者:20名(うち12名が当勉強会の初参加の方々。20~60代まで幅広い年齢層が参加)
参加費用:無料
ゲスト:山中 真奈(シングルズキッズ株式会社 代表取締役)
主催・モデレーター:福澤涼子/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

【シングルズキッズ株式会社/山中 真奈さんについて】
シングルズキッズ株式会社は、2015年に設立し、2017年よりシングルマザーとその子どもたちが暮らせるシェアハウスを世田谷区上用賀でスタート。現在では、上用賀だけではなく、桜丘と千葉県市川市にもそれぞれコンセプトが異なるシングルマザーシェアハウスを開設し、その運営にも携わっています(詳しくはこちら)。

代表の山中 真奈さんは、それらのシェアハウスに同居しながら管理人としてシングルマザーたちを支え、時にはお父さんのように子どもたちを本気で叱ったりしながらも、子どもたちに日常の生活を楽しんでもらおうと日々、奮闘されています。


山中真奈さん

【勉強会レポート】
山中さんから非常に多くの有意義なお話をいただきました。ここでは特に印象深かったエッセンスをご紹介します。

◆シングルマザーたちが抱える課題
まずは冒頭、シングルマザーやその子どもたちが抱えている課題や置かれている状況について以下のように説明いただきました。

山中さん:現在、ひとり親家庭で育つ子どもは約6人に1人ぐらいだと言われています。まずシングルマザーの抱える課題は、経済的な問題が1番ですが、家が借りにくい、子どもが急な熱を出した時に仕事を休まなくちゃいけなくて支障が出てしまうなどもあります。あとは、愚痴を聞いてもらう相手がいないと言った、精神的なサポートの不足など様々あります。

私が何人もの(ひとり親の)お母さんに言われているのは、「自分が倒れたときの不安」というものです。例えば、このコロナの状況で「自分がコロナにかかったらこの子はどうなるんだろうと考えるとすごく不安」とか。単身者の私からすると、全くイメージが出来ないような不安を彼女たちは抱えていました。

また、その子どもたちも、ひとり親家庭で育つことによって、孤食になりがちになってしまう、親と喧嘩した際に怒りの感情を持っていくところがない、家庭円満なイメージを持ちにくい。更に、ひとり親だから「得られる情報が少ない」ということもあります。例えば、ロールモデルとなる人が身近に限られてしまうので、「大人になってから初めて”サラリーマン”と呼ばれる人が世の中にこんなに多いことを知った」と言った声もあります。

福澤注※
シェアハウスは、シングルマザーやその子どもたちの抱えている課題を全て解決するのは難しいとしても、上記の緊急時の対応や、複数の大人がそこにいることで子どもにとって得られる情報を増やし、将来の可能性を広げることに寄与ができそうだ。

◆シェアハウスの可能性
そういった課題に際して、山中さんがシェアハウスを始めたきっかけを以下にようにお話しいただきました。

山中さん:私の会社は『シングルズキッズ』という名前の通り、子どもたちをハッピーにするというのがコンセプトなんです。私はもともと親とあまりうまく行っていなくて、逃げ場が欲しくて新宿の夜の街で働いていた。そこでいろんな闇を抱えていた人々と出会い思うことがあったんですよね。そのあと、不動産会社に就職したのですが会社員は無理だなと思って会社を立ち上げたんです。その時に、新宿での経験があったから、複雑な家庭で育つ子どもたちをハッピーにしたいなという思いから、地域解放のシングルマザー下宿を始めた。

今では、近所に引っ越した子ども含めて、毎日子ども9人と大人7~8人でワイワイとご飯を食べている。とにかくそうなると、孤独とは無縁の世界で、みんなでちっちゃな楽しい生活を積み重ねていこうねということで2017年から今まで続いています。

◆デコとボコがぴったりとハマれば、共助となる
山中さん:まずこのシングルマザー下宿をいろいろ調べたのですが、高齢者の方って自分のことを「元気だ」と思っている人が多くて、且つ「社会貢献をしたい」と考えている人が一定数いるんだということがわかりました。

それで、そういった元気で社会貢献したと考える高齢者に、手助けが必要なシングルマザーをマッチングさせるのはどうだろうと思ったんです。助けたいというデコと助けてもらいたいというボコをマッチングさせるイメージです。

それで、ちょうど知人のシニアの女性に「一緒に住みませんか?」と声をかけてみました。そしたら、そのシニアの方もちょうど家を退去しないといけない状況で「是非」って。それで、そのシニアの女性とシングルマザーが一緒に暮らす生活が始まりました。その新規性からメディアにも多数取り上げられました。

私はこういったデコとボコがハマるということを非常に大事にしていて、最近千葉で始めたシェアハウスも、シングルマザーと児童養護施設をでた若者のシェアハウスなんです。これは過去、既に運営していたシェアハウスで児童養護施設出身の単身者の子が住んでいた時に、日常生活の些細なことに感動していたりとか、『少し子どもと遊んだけなのに、有り難う、と言われた!感謝された!』とすごく喜んでいて、このデコとボコが面白かったんですよね。

福澤注※
国や自治体が提供する「公助」、自分だけで何とかする(費用を払ってサービスを買うなど)の「自助」、それとは別に互いに助け合うことを「共助・互助」という。現在では、この「共助・互助」が重要視されてきているが、地域コミュニティが希薄化した現在ではその共助を生み出すことは非常に難しい。山中さんのデコとボコをマッチングさせるという構造的な働きかけは、「共助」を生み出す仕掛けとなっている。

◆元気な人が、元気のない人を助ける構造に。
山中さん:あと、運営において気をつけているのは、傷ついている人だけでコミュニティを作らないということです。例えば、傷ついた人同士だけで会話をさせると旦那の愚痴大会で終わってしまう。この前もあったのですが、離婚調停している最中のお母さんが「今、離婚調停で大変で…」と話していて、離婚調停を既に経験しているお母さんが、「大丈夫よ!私も当時は大変だったけど!ハハハ〜」と笑い飛ばしていて、「そう言ってもらえて安心した」と当事者のお母さんも話してくれました。そういう環境自体が傷ついた心を癒すセラピーになるんですよね。

だからこそ、シングルマザーだけのシェアハウスにはしないようにしていて、単身者など「え?離婚調停ってそもそも何ですか?」みたいな子がいるとハレーションが起こりにくい。そういった元気な人たちが7~9割の割合になるようにして、1~3割の傷ついたケアの必要な人を上げていくことが大事。

◆助けられる層と限界について(不動産のプロではあるが、福祉のプロではない)
山中さん:そのような構造にしているのも、1対1でケアをするのは福祉のプロではない我々は無理だと思っているから。

始めた当初はトラブルがよくあって、入居面談の際は問題が無くても、入居後生活が安定してくると他者へコミュニケーションが攻撃的になったり爆発してしまう方に責められたりすることがあって…朝起きると動悸がして涙が止まらないくらい私もしんどくなる経験ことがあり、福祉的な事を勉強したんですよね。そしたら、福祉素人には見抜けない闇があって…。

とにかく、メンタルが追い詰められてしまっているんですよ、お母さんたちは。周囲から「ひとり親は可哀想」、「あなたが我慢すれば良いのに」、「私だって我慢しているわよ」と言われて自分を責めてしまうとか。あとはDVで本人が気づいていない傷を負っていることもある。

更に加えて、「平均就労年収200万円」と言った経済的な課題をシングルマザーたちは抱えていて、そうなると、福祉的なケア、経済的なケアがどうしても必要なんです。そういうサポートなしに、シェアハウスに住んでしまうと、それこそシェアハウスの基本であるお互い様とか許し合うことが出来ずに、トラブルを起こしてしまいます。

だから、私は家賃を高めに設定して経済的にはある程度の余裕のある層を入居者ターゲットにしているんです。この層は、「収入が一定あるよね」ということで、行政からの支援が打ち切られてしまう層です。それでも、経済的な問題だけではなく、ひとり親で育てるのには課題があるから、シェアハウスに暮らすメリットがあるんです。そういうお母さんたちなら、経済的な余裕はあるから、精神的な余裕も生まれて、他者に対する気遣いも生まれやすくコミュニティが安定する。

実は3年目くらいに絶望が訪れました。虐待を受けて育った子どもたちで、どんなにサポートしても改善できなかった。根本解決が難しいことに絶望したんです。それで結論として行き着いたのが、「支援はしない・万人は救えない」ということ。

私は無宗教ではあるのですが、その言葉を聖書に教えてもらって納得しました。あり方も共通すると思っていて、万人は救えないし、何も出来ない・救えない自分ですら許してあげられるかが大事。環境を作っただけで、何もしない。ただあるだけ、そのあり方が誰かの救いになったり伝播していく、というあり方が大事だと思っています。

◆シェアハウスは許すことを練習する場所でもある
山中さん:そのあり方のコンセプトが「愛と感謝と許し」だと思っていて、何より「許し」が1番難しい。何か問題が起こったときに「まぁ良いか〜」って許せることが大事。

その、許しが一番難しいけど、私たちは生まれて今までいろんなことを許されてきたと思うんですよね。きっと、誰もが子どもの頃、すごい泣いてうるさかったかもしれないけど、許されてきていると思う。

シェアハウスは、許すことを練習する場所でもあるし、「愛と感謝と許し」の3つが循環するような場所をこれからもしていきたいと思っています。

参加者の皆さんで記念撮影

◆アンケート結果から
参加いただいた皆様からの感想です(抜粋)

・シングルマザーシェアハウスを実践なさっていらっしゃるのは素晴らしい事ですが、ご苦労も多々ある事がよく分かりました。人と人ですから難しいですよね。でも楽しめる様になさっていて本当に素晴らしいです。

・まなさんがこれまでの試行錯誤されてきたシングルマザーSHの運営の奥深さ。
属性が同じだとハレーションが起きるが、できることをしていくという山中さんの姿勢。ビジネス展開していく際の割り切りを持ちつつ社会課題に向き合う姿が印象的だった。
ゆるしが1番難しいということ。

・ありがとうございました。たくさん素敵な言葉がありましたよね。

・運営への視点がとても勉強になった。

・想いが大事。長く継続するため、広く広める為にも事業として成立できるようになることは重要であると認識しました。そして、理論的で仕組として広げられるようになるのがベターであるとも感じました。最重要なのは「人」であるとも感じました。

◆勉強会を終えて(福澤涼子)
今回のテーマである「ケアの共助」。この勉強会以前は、シングルマザー同士、つまりケアサポートが必要な人同士で、互いに助け合ってると私は勝手に考えていました。しかし、それだけではなくて、デコとボコのマッチングや、元気な人7割で、ケアの必要な残り3割を引き上げる環境を作るなど、多様な層が自然と支え合える構造を作って、成り立たせていることに驚きました。
また、山中さんは「愛と感謝と許しが何より大切」と、この会でも繰り返しお話ししておりました。これはこの研究会の大きなテーマである「寛容さ」とも重なることだと感じました。これらが循環するシェアハウスを、多様な人がいるという環境を作ること、家賃設定、日頃の声かけや入居前のアナウンス、地域解放などなど非常に様々な視点から生みだそうとしていて、私自身、非常に勉強になる会でした。

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