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大井町コミュニティキャンパスプロジェクは、10月15日(木)20時から、多世代型シェアハウス研究会の第5回勉強会『高齢者シェア居住(グループリビング)のいま〜世代に関わらず存在するシェアハウスの価値について考える』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。今回は、高齢者シェア居住及びグループリビングを研究する2名の研究者をゲストにお招きして、高齢者シェア居住について知識を深めるとともに、世代や年代関わらず共通する価値を探りました。

開催概要レポート

20:00 「多世代型シェアハウス研究会」の紹介
研究会の冒頭、「多世代型シェアハウス研究会」の紹介をさせて頂きました。
この勉強会に毎回参加してくださる参加者もいて、有り難い限りです。

多世代シェアハウス研究会とは?
慶應義塾大学SFC研究所という研究所内にある「みらいのまちをつくる・ラボ」。そのラボの中で、大井町を拠点にワークショップ形式で多様な人びとが集いコミュニティづくりを探求するプロジェクトが、「大井町コミュニティキャンパスプロジェクト」。(大井町に拠点があり、コロナ以前は大井町の拠点でワークショップを実施していた)。その中で、「(多世代型)シェアハウス」に興味・関心がある人同士で、学び合うコミュニティとして発足したのが『多世代型シェアハウス研究会』。多世代型シェアハウスの価値や課題を共に探求したり、その面白さを世の中に発信していくためのコミュニティである。

20:05  このテーマの背景の説明
<問題意識>シェアハウスは高齢者ケアの問題の解決策の一つとなるのか

まずは、主催の福澤よりグループリビングや高齢者シェア居住を扱う背景についてお話しました。核家族化や未婚の高齢者の増加を背景として、近年、一人暮らしの高齢者が急速に増えています。更には、地域とのつながりが減少しているということにより、社会的に孤立する、必要なケアが受け取れない、果ては孤独死など高齢者をめぐる問題も顕在化しています。そうした中で、「シェアハウス」は、これまで見てきた「育児」というケアだけではなく、「高齢者のケア」という問題の解決策の一つとなるような有用性を持っているのか探っていきます。

20:15 グループリビングとは
そのあとは、研究者の土井原さんから「グループリビング」とは何か、その定義や事例について詳細をお話しいただきました。

グループリビング
複数の居室と共同生活空間から構成される住宅において、コミュニティの中の様々な資源による食事・清掃・健康維持などの関する基礎的生活サービスを受けながら、高齢者が安心で自立した暮らしを目指す住まい方。その特徴は、ケアを目的としない(ケアを効率よく受けることを主目的とした共同居住ではない)、小規模(家庭用設備と家事仕事の範囲で生活でき、居住者間の程よい共同性を生み出すための規模)
※これらは、C O C O湘南台をモデルに広がったグループリビングの定義や特徴です。

以上のようなグループリビングの定義や、特徴の説明の後、『たすけ愛の家(運営:N P O法人いぶりたすけ愛)』というグループリビングを事例とした、グループリビングに居住者のニーズをご紹介いただきました。

<グループリビングの居住者ニーズ>
①自発性(朝食作りや家の清掃は自分で行うことで、認知症などが回復することがあったなど)
②楽しくおいしい食事
③居住者間の緩やかな関係
④様々なコミュニケーションの場をつくる
⑤共生と役割(居住者の意向を聞いてつくられた駄菓子屋で居住者が店番をするなど運営に参加)
⑥地域との繋がり(サロンがあるので、地域・外部の人との交流がある)

こういった、居住者のニーズに応えるために、そこまで過度なケアはあえて行わないのがグループリビングであり、『たすけ愛の家』では、必要に応じてたすけあい事業(配食・移送・送迎サービス)と介護サービス事業(訪問介護・居宅支援)の手を借りながら、自発性を持った暮らしが可能となっているようです。また、グループリビングの中だけに閉じるのではなく、地域との繋がりを維持するということもグループリビングには重要で、その背景には、居住者ニーズを汲んだ運営者側のさりげない配慮などがあるのだと感じました。

20:30 研究者の発表
グループリビングとは何か、参加者の理解が共通となったところで、研究者であるお二人から研究内容を発表いただきました。

研究者発表①
「高齢者シェア居住の居住者間のケア」(発表者:近兼路子さん)

近兼さんの研究対象は、高齢者シェア居住をしている「居住者」です。
シェア居住での居住者間のケアでは、日常的な気づかい・配慮(例:夕食の場に現れないと心配で見に行くなど)や軽度の手段的ケア(例:エレベーターのところまで荷物を持っていくなど)、急病など緊急時の早期対応が見られており、高齢者には多くの価値を生んでいます。その一方で、心身が弱り、受け取ったケアのお返しが難しい状況が生まれると、心理的負債を感じて居心地が悪くなる場合があることがわかりました。果たして、ケアというのは、個人が心理的負債を感じなければならないような「課題」なのでしょうか。それに対して、近兼さんはケアを「共通の課題」として扱うことにより、グループへの愛着を高め、自分の利益ではなく集団の利益を優先する人が増える可能性があることを紹介されました。ケアの課題は個人ではなくグループ共通の課題だと認識し、居住者が他の居住者に関与し続けることで、個人にもグループ全体にも良い効果が生まれるのではないかということをお話しいただきました。

この研究会ではこれまで、ケアの中でも「育児」を扱ってきましたが、子どもの存在が集団の愛着を高めるというのは共通点だと感じつつも、一方で育児を行っている若者よりも高齢者の方が、心理的負債を感じやすい側面があることは違いとして認識しました。

研究者発表②
「グループリビングの暮らしとケアーたすけ愛の家の事例を通してー」(発表者:土井原奈津江さん)

土井原さんの研究は、先ほどの近兼さんの研究と比較すると、一つのグループリビングを事例に「運営方法」などに着目した研究でした。
研究方法として、事例である「たすけ愛の家」で行われた10年間のミーティング議事録と、当時の住人の入れ替わりなどを照らしながら、その時々でどのような運営がなされていたのか、を可視化していきながら、グループリビング運営に重要なポイントを明らかにしました。

グループリビング「たすけ愛の家」では居住者の入れ替わりが多い模索期(最初の2年ほど)には、施設環境に関する紹介や居住者間の紹介にミーティングの大半の時間が使われていたのに対して、徐々に居住者間が安定してくると、住人ニーズから発した「駄菓子屋開設」に関する話や、入院した居住者を心配する声などが多く話されるようになり、グループの仲間意識が高まっていることが議事録から見て取れました。

また、10人という少人数グループでは居住者の加齢に伴う身体的・精神的変化の影響を受けやすく、居住者間の入れ替わりが頻繁になると不安定化しやすいことがわかりました。そのため、居住者間だけの関係性ではなく、地域との繋がりを作り多様な人間関係を作ることが重要、そして、運営者自身もその地域の一員としてサポートするという意識が重要であるとお話しいただきました。

実践者の声
ターミナルケアについて(発表者:NPO法人てのひら理事長石原さん)

このグループリビングでは、3人のターミナルケアを行いました。だけどね、私たちはお世話をしたということではないんですよ。ただ「どうぞ居てくれて良いんですよ」と言葉をかけただけです。あとは、ご本人の意思とかご家族と往診に来てくれる先生のご協力で成り立っておりますから。核家族で家族は信頼できなくても、遠方におられても家族は家族だと思います。だから、ご本人の意思と家族の言葉を大事にしています。それで応援者の人に支えてもらっている。だから、”わざわざ”じゃなしに、”普通に”ターミナルケアをしているだけで、自慢でも何でもないんですよ。

これまでターミナルケアに反対した住人はおりませんね。むしろね、ターミナルケアをやることによって、住人の皆さんも「ここに居て良いんだ」って安心感になりますからね。寿命から健康寿命を引いた期間をいかに過ごしてもらうか、ということを大事にしていますからね、負い目なく居て良いってことを伝えることが大事だと思っています。

21:00 意見交換会
後半は、参加者を4~5人程度のグループに分けて、意見交換会を行いました。
あるグループでは、グループリビング運営者、若年層向けシェアハウス運営者、若年層シェアハウス居住者(20代前半)、グループリビング在住者、いつかグループリビングを立ち上げたいと考えている方など、かなり多様なメンバーで意見交換を行いました。

何より、グループリビングからZoomを繋ぎ、多世代が交流するというシーンは感動を覚えるものでした。ご参加いただいた皆さんありがとうございました。

以上が開催レポートです。

参加者アンケートより

以下、アンケートに寄せられた参加者からのコメントです。
Q.本日の勉強会で最も印象に残ったことはどんなことですか?何か気づきや学びはありましたか?具体的にお聞かせください。
●交流会で色々な年代のシェアハウスのお話を聞けて とても面白かったです。でも高齢者シェハウス住民だからでしょうか やはり入居者同士のケアのあり方を 関心をもって伺いました。グループリビング住民の多様な考え方があるなかで 「自立と共生」という理想に少しずつでも近づいていきながら ターミナルケアも視野に入ってくる ということを感じさせられました。また介護度が高くなればなるほど そのケアに隙間部分が多くなる ということを伺い 今後を考える上でとても参考になりました。
●料金について議論があるべきと思います。メンバーのグループリビング全体でどんな料金レベルか知りたい。
●「家族以外の人と住む」という事に対する意識はここまで変化してきているんだ、と気づかされました。
●入会したてて全く初めての参加でしたが、思っていたよりずっと学術的でした。
●高齢者のシェアハウスがもうあるという事や、実際のご様子が聞けて良かったです。
●老後を含めてグループリビングで暮らしたいと思っているのですが、知らないことがかなりあるという印象でした。介護認定のことなど全然知らなかったです。もっと勉強したいと思いました。
●シェアハウスや高齢者グループリビングに住んでおられる方のお話を生でお聞きすることができてとてもよかったです。本などで読んだ時よりぐっと身近に、かつ現実的に感じられました。半面、都会と地方の意識の差も改めて感じたことでした。福山市に高齢者グループリビングがあるといいな、なかったら作りたいな、と思っているので、福山の高齢の人たちの意識と要求に沿ったものを作ることが大事、と思いました。そのためには、もっと多くの賛同してくれる人を集めてプランをつくる必要があるということを感じました。意見交換の時の、初めてシェアハウスを作った時にはめちゃくちゃ叩かれたけれども今は存在意義を認められている・・・というお話(だったと思いますが)にはちょっと励まされました!

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