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2024年1月22日(月)多世代型シェアハウス研究会は「シェアビレッジ鎌倉西御門」へのフィールドワークを行いました。以下、研究会を運営する慶應義塾大学SFC研究所の福澤涼子上席所員がレポートします。

シェアビレッジ鎌倉西御門とは?

鎌倉駅より歩くこと30分。西御門エリアの山裾に広がるおよそ3,000㎡の土地をコーポラティブ形式で開発中の「シェアビレッジ鎌倉西御門」。数年単位という長い時間をかけて、少しずつ街並みをつくるまちづくりプロジェクトです。

現在のところ、敷地内に元々建っていた1999年築のテラスハウス(2戸)、2018年に完成した長屋住宅(7戸)、戸建てが2戸で、合計10名程のシングル・カップル世帯と1子育て世帯が、豊かな自然に囲まれた贅沢な土地で、畑やサウナを住人同士でシェアしながらつながりの中で暮らしています。あと1~2年以内に、残った敷地内にさらに共同住宅やシェアハウス、民泊施設などを建てていくという計画もあり、より賑やかな暮らしになる見込みです。
 
写真)複数世帯でシェアしている長屋裏の庭(写真:福澤撮影)

今回案内いただいたのは、不動産投資家でありこのプロジェクトのプロデューサーでもある青山幸成さん。自身も敷地内の戸建てに暮らしながら、住人たちと関係を築いています。青山さんは10年以上前の黎明期から湘南・横浜エリアでシェアハウスを何棟か運営しており、ご自身もシェアハウスで暮らしていた時期もあったそうです。このプロジェクト立ち上げを機に、このシェアビレッジ内に転居してきました。

写真)畑を耕す青山さん(写真:青山さん提供)

成熟した大人のシェア暮らし

「どんな人が何を動機に住んでいるのか?」を青山さんにたずねると、動機や属性は様々。単身者や、子どもがいないカップルなどの「大人のシェア暮らし」という雰囲気だと言います。

青山「鎌倉なので都心にも出やすい一方で、このように山に囲まれて空気もよく自然が豊かでしょう。賃貸募集すると、見に来て直観ですぐにお引っ越しを決める人も多いです。私も含めて、もともとシェアハウスに住んでいたという人もいますね。最近では結婚してもそのままシェアハウスに住むという事例も出てきていますけど、一般的にまではなっていない。やっぱりそもそもの供給数や、あっても物件のインフラ面がカップル生活に追いついていないんじゃないかなと思っています。ここ(シェアビレッジ西御門)は、互いのプライバシーや空間が守られた暮らしが基本としてあって、その上にビレッジ内の交流を楽しむことができるような空間設計ですので、良いとこ取りの住まい方と言えるでしょう。社会全体でシェアハウス経験者が増えているなか、こうしたつながりを育みやすい住まいに暮らしたいというニーズは今後ますます高まってくると感じています。」

青山さんも近年暮らしていたシェアハウスから越してきた一人ですが、今回の転居が、久しぶりのひとり暮らしだったそう。

青山「もちろん、あのままシェアハウスに住んでいても、わちゃわちゃと楽しんでいただろうと思います。ただシェアハウスだと、良いものを乱暴に使われても嫌だから、鍋とかキッチンとかにこだわれない。だから、自分専用のキッチン空間があるのが今はとても楽しいですね。あと、シェアハウスよりプライバシーがある暮らしなので、大人になるとこちらの方が楽かなとは思います。」

コミュニティの中心はサウナ

そうは言っても、つながりがないわけでは決してなく、日常的に多様な交流が行われています。そして、そのひとつが、庭にあるサウナです。

写真)サウナテント(写真:福澤撮影)

このサウナはシェアビレッジ西御門の住人のひとりが、「サウナを買いたいんだけどみんなで買わないか」と提案し、賛同した人で費用(ひとり1万円)を出し合い購入しました。初期費用を出した人は使い放題、初期費用を出していない住人や来訪者は1回1000円の利用料で利用することができます。
購入後は、誰かしらが企画し、週末は住人同士でサウナ時間を楽しんでいるそうです。

青山「サウナって、温まる以外はすることもないじゃないですか。だからこそ、たわいもない会話がしやすくて良い交流の時間になっていると思います。それ以外にも、私がお酒と料理が好きなので、食材が豊富な時と誰かと飲みたい気分の時は自宅前で会った住人さんに『今日、うちに飲み来ない?』と声をかけて誘うことも。飲み好きな人も多いので、急な誘いでも喜んで来てくれることが多いです。私が先に眠くなって2階で寝ても、深夜まで残った来客者がひとりYouTube見ながら騒いでるなんてこともよくあります。そして翌朝起きて冷蔵庫を開けると、だいたいビールがすべて空になっていますね。ほとんど彼女のリビング状態ですね(笑) そういうのも含めたらホームパーティーばかりやっているイメージですね。」

いつもの、そして、もしもの時の助け合い

何かを提供するのは青山さんだけではありません。青山さんの他にも料理をふるまうのが好きな住人さんがいて、その人の庭で集まることもよくあります。また、料理が苦手な住人さんは、どこかに行って来たらお土産と食材(しかも高級なもの!)を買ってきてくれたりもするそうです。

青山「ここでの暮らしは、大人のGive&Takeな関係で自然と成立していると思いますね。みんな得意分野を持ち寄っている感じです。例えば、金継が得意な人がいたら、割れた食器の金継をしてくれるし。有名な占いの先生も住んでいるんですけど、食事の最中についでにプチ鑑定が始まったりとか。ご実家の農園から届いた美味しいフルーツの差し入れが届いたり。自家用車を持つ住人が、商店街や近所の漁港へ行くという際には、他の住人が便乗することもあります。」

写真)青山さん宅でのホームパーティーの様子(写真:青山さん提供)

そんな風に日頃から相手に何かをしてあげる関係だからこそ、もしもの時に「ヘルプ」も言いやすくなります。現状、シェアビレッジ西御門には、子どもや高齢者など助けが必要となりやすい住人は住んでいなませんが、もしもの時には助け合いがみられているそうです。

青山「誰かが病気や熱で寝込んでいるとわかれば、飲み物や食事を届けるということは普通にしますね。あと、私自身も1日家に帰れなそうだなという時には、急遽犬の世話をお願いすることもあります。メッセージのやりとりをしているトークルームに『すみません、今日、家に帰れなそうなので、犬の面倒みてくれますか?』と送るだけで、誰かが『あ、じゃ見ておきます』と言ってくれて。それで、うちの鍵の番号とかも皆知っているんで(笑)。勝手に入って、ご飯とトイレの世話してくれます。逆に他の住人さんの猫ちゃんの世話をすることもあります。」

コミュニティを生むためには、ハードだけでなくソフトも大事

果たしてこのような豊かなつながりをうむ住宅は、誰にでも簡単に生み出せるのでしょうか。長年、シェアハウスなどコミュニティ型住宅の運営をしている青山さんにそのあたりもうかがいました。

青山「ハードだけ作っても、良いコミュニティは生まれないと思います。何か企画したり、みんなをつなぐコミュニティリーダーみたいな存在がいないと、厳しいと思いますね。僕は、会社経営(組織マネジメント)やシェアハウス運営(コミュニティマネジメント)の経験が長いので、そうした対人コミュニケーションのノウハウが異常に蓄積されていると思います。また、みずがめ座生まれなんですが、コミュニケーションの星らしいですし(笑)。天職なのかもしれませんね。人が集えばムラとなり、ムラにはなんらかの秩序やリーダーが必ず必要になる。バランス感覚のあるリーダーがいることが大切でしょうね。あと、人は酒と料理があればだいたい平和ですから、飲み会は大事です(笑)。

それから10人規模のシェアハウスをいくつか運営してきて感じているのは、だらしない人を許容できるバランスは10人のうち2人くらいかなと。それ以上、だらしない・・例えば、シェアハウスを汚しても掃除しないような人が増えちゃうと、綺麗好きで掃除を率先してやる人たちの心が折れて、一気にシェアハウスの秩序が崩壊する気がします。だからひとりひとりというよりも、シェアハウスの住人のバランスを見ることが運営上大事かなぁと思います。」

シェアビレッジ鎌倉西御門のような独立した住まいの集合の場合は、水回りを共有するようなシェアハウスより生活の交わりは少なくなり、その分プライバシーを保つことが出来ます。ただ一方で、生活の導線で交流を生み出す機会は少なくなるため、良いコミュニティを形成するには工夫も必要です。

シェアビレッジ鎌倉西御門では、Giveが好きな青山さんや得意分野を持ちよる住人らによって、大人の配慮とお互いの思いやりをベースにしながら、ちょうど良いバランスのコミュニティが形成されているように感じました。

今後、シェアビレッジ鎌倉西御門内に、店舗付きの共同住宅やシェアハウスを作る計画があるそうで、更に多様な人びとが暮らす街らしくなっていきそうです。これからますます規模が大きくなった際、こうしたコミュニティがどのように変化していくのか、また改めてお話を聞いてみたいなと思いました。

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