大井町コミュニティキャンパスプロジェクは、9月17日(木)20時から、多世代型シェアハウス研究会の第4回目『育児シェアハウスの課題と価値(後編)』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。今回は、「神楽坂シェアハウス」にともに暮らす1組の親子と2人の単身者の方々をゲストにお招きして、大人が多くいるからこその育児にまつわる価値や課題について、深堀りしていきました。
<開催概要>
20:00 「多世代型シェアハウス研究会」の紹介
研究会の冒頭、「多世代型シェアハウス研究会」の紹介をさせて頂きました。
この勉強会に毎回参加してくださる参加者もいて、有り難い限りです!
多世代シェアハウス研究会とは?
慶應義塾大学SFC研究所内にある「みらいのまちをつくる・ラボ」。そのラボの中で、大井町を拠点にワークショップ形式で多様な人びとが集いコミュニティづくりを探究するプロジェクトが、「大井町コミュニティキャンパスプロジェクト」(大井町に拠点があり、コロナ以前は大井町の拠点でワークショップを実施していた)。その中で、「(多世代型)シェアハウス」に興味・関心がある人同士で、学び合うコミュニティとして発足したのが『多世代型シェアハウス研究会』。多世代型シェアハウスの価値や課題を共に探究したり、その面白さを世の中に発信していくためのコミュニティである。
20:05 シェアハウスについて定義のすり合わせ(担当:福澤涼子)
●シェアハウスの定義
本勉強会でのシェアハウスの定義を確認し、参加者の認識を統一させました。その定義とは、「リビング、台所、風呂、トイレを協同で利用するShared Housingの形態で、非親族同士が共に住む住居形態」です。
●問題意識
その上で「ワンオペ育児」や「育児不安」といった育児を取り巻く課題について触れて、もっと育児をポジティブに楽しめないか?そのヒントを今回の勉強会では探っていきます。
20:15 ゲスト紹介(神楽坂シェアハウス)
まず今回のゲスト、神楽坂シェアハウスの皆さんの紹介です。2016年に2組の夫婦で始めた神楽坂シェアハウス。現在では、松尾家族3人と単身の稲葉さん・藤巻さんの大人4人+子ども1人が、3LDKのマンションでシェアハウスをしています。場所はその名の通り、神楽坂。20畳もあるリビングと広いキッチンがあるファミリー向けのお部屋で暮らしています。
松尾家(力・真奈・息子くん3歳)
稲葉 菜那(写真左)・藤巻 慎(写真右)
20:20 ゲストトーク
続いてゲストのみなさんにシェアハウスでの育児についてお話を伺いました。以下、その概要です(敬称略)。
●シェアハウス をはじめたきっかけは?
福澤:まずこの神楽坂シェアハウスを始めようと思ったきっかけを教えてください。
真奈:このシェアハウスを開始する前にも、シェアハウスで暮らしていたんです。それは、就職で東京に出てくる際に、友達にシェアハウスをしない?と誘われて、安いし職場からも近いし良いかなって始めたのがきっかけだったんです。はじめてみると、友人が連れてくる人とも関係性ができる感じがすごくいいなと思って。私は公務員で、一緒に住んでた子がベンチャー企業だったから、全然違う世界の人の話が聞けて、価値観や視野が広がる感じが良いなって。
その後、結婚して夫と2人で2年くらいは暮らしていたんです。その時にも、「おうちバル」って言って色んな人を招いたりしていたんですけど、もっと身近で一緒に暮らしても良いかなって思うようになって。その時にたまたま、友人夫婦にその話をしたら、うちらも同じこと考えてた!って意気投合して。それで始めたのがきっかけです。
力:家さがしはけっこう大変だったんですよね。お互いの夫婦の1人ずつが代表で出て、いろんな物件を見て回って。その間に妊娠が発覚して「どうしよう」と思ったのですが、相手夫婦が別に良いよって言ってくれて。
福澤:なるほど。最初、ご自身でシェアハウスをやっていて、それが非常に良い経験になっていたので家族でも始めようとなったわけですね。では、単身のお二人はどうしてまた子供のいるシェアハウスを選んだんですか?
藤巻:僕はもともと、横浜の「ウェル洋光台」っていうシェアハウスに短期間滞在したことがあるんですけど、そこがすごく良かったので、都内でシェアハウス探そうかなと思って、いろいろ見ていたんですよね。その時に、たまたま松尾真奈さんと知り合って、ここに遊びに来て誘われたのがきっかけです。
稲葉:私も料理人として何回かここで、食事会の時に料理を作っていて。とても良い雰囲気だなって思ってたんです。それで、この部屋の前に住んでいた女の子が引っ越すので空き部屋が出るということで、私自身も引越しを検討していたんで、タイミングが合って入りました。
福澤:なるほど、どちらももともと知人で何回か家にも来て雰囲気をわかっていたということなんですね。
●シェアハウスでの育児。親にとっては、どんな課題や価値がある?
福澤:最初のトークテーマは、「親にとって」の育児シェアハウスの課題と価値。まずは価値について、お聞かせください。
力:そうですね。まずは育児を手伝ってくれると言うのが純粋に助かりますよね。うちは、夫婦の誕生日の時には2人きりで食事に行くんです。で、その際にはシェアハウスのメンバーに息子をお願いしていて。お迎え、お風呂、食事、寝かしつけのフルコースで。あと、日常でも、僕らがね、土日に子どもが騒いでても寝てたりすることがあるんですよ(笑)。そうすると、泣き叫ぶ我が子にりんごを剥いてあげてたりとか。
福澤:本当すごいですよね。
力:お互いフルタイムで働いて喧嘩もせず、まぁ喧嘩もよくしますけど、そこまでせず(育児が)出来ているのはシェアハウスのおかげかな、と。
福澤そうですよね。しかも保育園のお迎えに行くのはすごいですよね。怪しまれせんか?笑
力:僕たちは結構早めに言うんですよね。うち、シェアハウスなので、親以外の大人が迎えに行く事もあるんでよろしくお願いします、と。
福澤:そうなんですね。また、精神的にもシェアハウスで育児をすることで楽になることが大きいと言うことでしたよね。
帰宅後に、誰かがいる安心感
真奈:私たち夫婦は両方ともフルタイムなので、片方がお迎えの時には片方は残業で、だからお互いが家にいるということが平日はほとんどないんですよね。そんな中、シェアハウスの人が誰か家にいるだけで安心感みたいなものはありますよね。
子どもを純粋に可愛がってくれる人の存在
真奈:子どもを可愛いと思えないことってあるじゃないですか。言うこと聞かなくて怒っちゃうとか。けど、そんな中、シェアハウスの誰かが息子を可愛がってくれていると、「あ、可愛いと思えないのは自分の状態のせいやったんや」と客観的になれると言うか。
小さなストレスが自然と解消
真奈:そう言った意味でも、冷静になれるからストレスが溜まりにくい気もするし、ちょっとした時に見ててもらえる事で、「あれが出来ない、これが出来ない」が減るからストレスも溜まりにくいですよね。
●シェアハウスでの育児。単身者にとっては、どんな課題や価値がある?
福澤:続いては、単身者側からの魅力です。他人の子どもと暮らすのは、うるさいとか大変なイメージもありますが、逆にどんな価値があるのでしょうか?
子供のいる生活がイメージできる
藤巻:松尾家が夫婦共働きで育児をしているので、共働き夫婦で育児をした場合のイメージが非常に持てますよね。身近に感じられるようになったというか・・
福澤:感じられることで将来的なビジョンとかに変化はありましたか?
藤巻:それこそ、夜まで仕事をしていたら子どもに会えないんだなとわかったし、育休はあるのかなとか、取れなかったら転職も考えようかなとか。現実的に見れないと、育休を取得しようとも思わないんで。あと、子どもが複数人いる同僚がイライラしていると、あ〜育児大変なのかなと想像できたり。周囲に優しくなれますよね。是非、男性独身のマネージャーの研修には、育児シェアハウスでやってほしいですよ。すごく価値観変わると思います。
福澤:なるほど、なるほど。確かに部下の気持ちや状況を想像できるようになりますもんね。早く帰っているからと言って、休めているわけではないんだぞ、と言うね。
福澤:課題としてはどうですか?例えば、夜泣きがうるさいとか、お部屋が散らかるとか、自分だって土日に疲れているのに、他人の子どもの面倒を見てるわけじゃないですか。それについては、自分の時間が減っているなぁとかネガティブな感情にならないんですか?
藤巻:そうですね。一人暮らしをしている頃と比べたら自分の時間は減っていると感じますよね。けど、僕はこの生活の「対話ができる時間」とか、そういうものにメリットを感じています。ひきこもろうと思えばひきこもれるし。夜泣きうるさければ、昼寝すれば良いしとか。
福澤:もともとそんな穏やかだったんですか?
藤巻:確かに、夜中うるさいのは最初はけっこうしんどかったですよね。けど人間やっぱり慣れてくるというか、踏切近くに住んでいて慣れるのと一緒で。慣れてくるんですよね。あと、うるさいと感じる時って自分の精神的な余裕がない時なので。あ、イライラしているということは、自分いま余裕ないんだな、とか思えるので。
日々が新鮮に感じられるようになる
福澤:続いて稲葉さんいかがでしょうか?まだ住んでそこまで期間は経っていないですが、どんなところに価値を感じているのでしょうか。
稲葉:私も身近に子育てしている人がいなかったし、あまり現実的に自分が子どもを持つことをイメージしてなくて。けど、大変なところも、良いところも見れる、それだけでも価値があるなぁって。知らないことを知ったということ自体ですごく価値があって。自分がもし子供を持つとしたら、どんな感じになるのかなとか。こんな風に身近な大人がいる環境っていいなとか。
福澤:より育児というものを現実的に捉えられるようになったということですね。
稲葉:他には、子どもって日々こんなに考えているんだな、って言うのを他人の子供で知ることができると言うのが新鮮で。この間、シェアハウスのみんなで長野に行ったんですけど、Aちゃん(子供の名前)が、蛙捕まえてて。私それまで蛙なんて近くで見たことすらなくて。そんな風に子どもと一緒にいることで、日々を新鮮に感じるようになりました。大人になると外を歩いてても何も思わないですよね。けど、子どもは影一つですごく喜んだりとかアトラクションになったりするんで、私自身もハッとすると言うか、日々の生活自体が新鮮で楽しくなったような気がしました。
福澤:なるほど。日々が新鮮に変わったと言うことで良いですね。最初は子供がいることによって不安があったとか?
稲葉:確かに最初はどう接して良いかわからなかった。けど、今は1人の人として接することができたり、自分のことを大人になってからも覚えててほしいなと思うようになった(笑)。2人きりになっても普通に接することができるようになりました。
真美:それこそ、コロナで保育園に預けられない時に、けっこう稲葉さんにお願いしていたんですよ。2人きりで遊んでもらうみたいな。その強制的に2人みたいな時間が仲良くさせたのかも。公園に2人で出かけて行って全然帰ってこないとかありました。
稲葉:最初は、どのくらい強気でいって良いのかもわからなくて。だから、Aちゃんが、帰るタイミングまで待ってたらゆっくりになってしまったとかはありましたね。
21:00 グループディスカッション
ゲストトークを踏まえて、チームに別れてディスカッションを行いました。
・「夫婦2人きりだと少し息が詰まる感覚がある、けど、そこに1人でもいることでうまく行く事もあるよねと言う話をした」
・「シェアハウスって若者むけの住まいで学生が終わったら住むって言う発想はなかったけど、例えば子育てシェアハウスでは何か課題を解決する手段となり得るんだ、と学びがあった」
・「複数の大人がいることで、子どもにむしろ悪い影響はないのか?」など各グループで話したことを最後、全体発表いただきました!
21:30 終了
クローズしてからも話が絶えず、放課後タイムと称して、23:00過ぎまで雑談をしておりました。以上が開催レポートです。
以下、参加者のアンケートよりご意見・ご感想の一部をご紹介します。
<参加者アンケートより>
(1)本日の勉強会で最も印象に残ったことはどんなことですか?何か気づきや学びはありましたか?具体的にお聞かせください。
・シェアハウス好きな方は、オープンマインドな方が多いなぁっと。
・ステキな生活うらやましい
・情報量が圧倒的だったのが印象的でした。実体験を聞けてよかったです。
・シェアハウスは核家族の抱える問題を解決できる
・シェアハウスという環境が子どもに与える影響について質問したところ、いろんな方が意見をくださって、大変勉強になりました。いろんな大人が身近にいるというのはいいことなのかもしれませんね。ありがとうございます。
・育児のイメージは大変。仕事と両立するのが大変というイメージがある。
だからこそ、子育てしている人を横目に(たまに関わり)、シェアハウスをすると子育てのイメージがつく。そうすると、子育ての準備に備えられたり、不安が改善される。
・子育てする側も子育てのシェアができて良い。先日、会社の上司にこの話をしたら確かにすごく助かるという。一人っ子のため、兄弟と遊ぶこともできずどうしても家で見守らないといけない時間ができてしまうという。意外と好感触だった。
・最近見つけた記事です。まさに育児シェアハウスが解決の糸口になりそうだと思いました。
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/10things-about-childcare
・育児シェアハウスとは?
①子育ての不安をシェアすることで(他の家族でも、単身者でも)育児不安を解消できるかも?
②育児のマンパワーをシェアすることで、自分の時間も仕事への体力も確保できるかも?
(2)本日の勉強会で、疑問に思ったこと、登壇者や研究者に質問したいことがありましたらお聞かせください。
・実際夫婦で入っている場合、夜の営みはどうなっているのか(笑)
・個別にお話しできなかった方へ。シェアハウス入居前の決まり事はありましたか?
(3)本イベントの運営に関する感想や改善点などお気づきのことがありましたらお聞かせ下さい。
・回を重ねるごとに、多世代型シェアハウス研究会は今後ともシェアハウス同士、およびシェアハウスに対して関心のある人のオンラインコミュニティになったら、面白いなと思いました。
・<シェアハウスのこれからの価値について>
最近、たまに「寂しさ」を感じている人を見かける。大学生なら学校が閉校しオンラインでのつながりに寂しさを感じる。社会人1年目の人はなかなか新しい出会いがない。リモートで孤独感を感じる人が増えたように思う。自分のシェアハウスでの生活を話すと、みんな面白そうと言ってくれる。これからますます必要とされるかもしれない。
・よく「1人の時間がなくなるのではないか?」と言われることがあるが、私にとっては十分確保できてると思う。個室もあるし、変に「みんなといないといけない感」はないし。また、オンラインでのつながりばかりになった今、オフラインでがっつり関われるシェアハウスは価値が高まる。
以上です。
改めてご参加いただいた皆さん、誠に有難うございました。