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加藤貴昭先生

みらいのまちをつくる・ラボにて最先端のe-Sportsの研究をされている加藤貴昭先生。
最先端の研究が、大井町にどのような変化を与えてくれるのでしょうか。
e-Sportsの今後、そして大井町の今後についてメッセージを伺いました。

インタビュアー
SFC研究所 松本章宏

加藤研究室で研究していること

松本
本日はゼミ生やこのサイトを見る外部の方に向けてのインタビューを行いたいと考えていますので、よろしくお願いします。
まずは、先生がみらいのまちをつくる・ラボにて行っている研究について教えてください。

加藤先生
私の研究室では、広い意味でのe-Sportを研究しています。特に、スポーツライクなゲームに対して、リアルとバーチャルとの比較をしています。また、健康のためのゲームに関する研究にも注目しています。e-postsにおける新しい可能性を知るという意味で、ゲームが多世代の交流の場になることを目指しています。

松本
ゲームが多世代交流の場になるというのは、具体的にはどういうことなのでしょうか?

加藤先生
これまで、脳トレのような「こういうことをやれば健康になれますよ」という物はたくさんありましたが、すでに発売されている一般のゲームを活かして、健康にどう生かしていけるのかを見ていきたいと考えています。
一般のゲームは誰でも楽しんでもらえるように作られており、世代を超えて一緒にプレイできる可能性があるため、世代を超えた交流の場を作れるのではないかと考えています。

松本
なるほど。一般に向けて発売されているゲームだからこそ、年齢や性別を問わず楽しめる可能性があるということなんですね。

加藤先生
既存のゲームについて研究していくからこそ、メーカーと一緒にコラボする可能性があれば良いなと考えています。一緒に研究してくれる企業と共に研究の成果を社会に還元していきたいと考えています。

大井町でe-Sportsの研究を始めた理由

松本
なぜ、大井町という場所でe-Sportsの研究をはじめたのでしょうか?

加藤先生
住んでいるから!(笑)

松本
なんとも明確な理由ですね!(笑)
では、住民という視点からも今回のプロジェクトには強い思い入れがあるんですね。

加藤先生
大井町というのは、とても便利な街だと思っています。交通の便が良いし、買い物も便利です。そのため、世代的にも広い人たちが集まっている場所だと感じています。大井町に住んでいる高齢者の人たちはずっと住んでいただろうし、一方でファミリー層も増加傾向にあり、小さい子からお年寄りまで幅広い年代の人が一つの場所に集まっているという街だと感じています。

松本
私もみらいのまちをつくるラボの運営を通じて大井町にくる機会が増えましたが、本当にたくさんの世代がお住まいで、活気あふれる街ですよね。では、この大井町とe-Sportsにはどういう関係性があるのでしょうか?

加藤先生
多世代交流を目的としたe-Spots研究を行う場として適していると思っています。
一方で、普段はあまり周りを知らない人も多いかもしれません。大井町は品川区に属していますが、お祭りがたくさんあったり、イベントを通じて人は集まりますが、日常的なつながりはそこまで強くないのかなとも感じています。

松本
それは先生が実際にお住まいになっているからこそ、感じるところなのでしょうか?

加藤先生
そうですね。まだまだ日々の交流の場が広まる可能性を感じています。
最近では孤独死や、引きこもり高齢者が問題になっていますが、例えばゲームが多世代交流の場を作り出せれば、外に出てもらえるきっかけになったり、住民のつながりが強くなれる場が作れるのかもしれません。

e-Sportsと実際のアスリートへの研究について

加藤貴昭先生

松本
e-Sports選手と、実際のアスリートとの違いや共通点はどこにあると思いますか?

加藤先生
リアルなスポーツとバーチャルなスポーツでどこまで関連があって、どこまで相互作用があるのかはまだまだわかっていない領域です。ただ、これまでの研究でサッカー選手のデータを取ってみると、彼らは積極的にゲームを活用して遊びながら競技特定のスキルを発達させているようです。それらが「知覚認知スキル」と呼ばれるものでもあったりします。

松本
ゲームで養われた能力が実際のスポーツでも役立っているなんてすごいですね。

加藤先生
逆にリアルでやってたことがバーチャルなことへのフィードバックを及ぼしている例もあります。実はサッカーゲームのプロはかなり高い確率で小さい頃に実際のサッカーをやっていた経験があります。サッカーはサイバーとフィジカルの融合が見えており、注目しています。

松本
それはサッカー特有のことなのでしょうか?

加藤先生
他にもドライビングゲームなども挙げられます。ドライビングもグランツーリスモというゲームを通じて、ゲームから誕生したトップレーサーが出てきたりしています。また、実際のレーサーもレーシングゲームを活用して練習するなどをして、タイムを伸ばす訓練をしています。リアルとバーチャルの融合はサッカーだけでなく、今後も様々なスポーツに広まっていく可能性があります。

松本
加藤先生がサッカーやレース以外に着目している競技はあるのでしょうか?

加藤先生
eBaseballも面白そうです。
また先日、アメリカから大手スポーツメーカーの研究者が大井町でeSportsの研究をしていることを聞きつけて話を聞きにきてくれました。

松本
すごいですね!今後も日本を拠点にe-Sportsの研究が広がっていきそうだと感じました。
一つ気になったのですが、先程出たサッカーとレースは全然違うスポーツのように感じますが、共通点は何があるのでしょうか?

加藤先生
私の研究室で研究しているのは視覚・知覚・認知という側面を見ています。それらの部分がサッカーでもドライビングでも似ている部分があります。

松本
視覚・知覚・認知、少し難しそうな言葉が出てきましたね。

加藤先生
視覚・知覚・認知とは簡単に言うと、人がどのように物を見て、状況を捉えて、そして判断するのかということに関連します。例えば競技中の目の動きを見てみると、リアルとバーチャルの両競技で同じような見方をしている様子が見られました。

松本
プレイヤーにとってはゲームもリアルも同じようなものとして捉えている可能性が高いんですね。

加藤先生
また、サッカーもドライビングも競技中のシチュエーションが刻々と変わっていきます。そのため、「先読み」を意識した戦略的な意思決定が重要となって来ます。戦略性と予測性という点で共通点があるのではないかという仮説を持って検証していこうとしています。

松本
なるほど、全然関係ないと思っていた2つの競技でも実は共通点があったということなんですね。

今後のe-Sportsの進化の先はどうなるの?

加藤貴昭先生

松本
今後のe-Sportsはどのようになっていくのでしょうか?

加藤先生
サイバーとフィジカルがどうやって融合していくだろうかということに注目していきたいと思っています。特に、融合が深まっていくとリアルのスポーツをやっているアスリート側がサイバー空間でのトレーニングにもっと注目をしてくれるようになるだろうなと思います。

松本
サイバー空間とリアル空間が融合してトレーニングしていくことで、アスリートの可能性も今後はもっと広がっていきそうですね。

加藤
あとは、e-Sportsはコントローラーを使って操作するものだからこそ、高齢者と若年層とイコール条件で楽めることが強みになっていくだろうと思います。世界的に見ると日本のe-Sportsは圧倒的に遅れているのですが、今後広がっていくためには日本ならではの、”健康”や”ヘルスケア”というキーワードがカギになると考えています。日本ならではのコミュニティの作りのあり方と、e-Spottsは親和性があるのではないかと思っています。

松本
日本ならではのコミュニティづくりとは具体的にはどういうことなのでしょうか?

加藤先生
海外の場合は、ゲームの中心は陣取り合戦や戦いといった競争領域でのゲームが主となっている場合が多いです。しかし、日本のゲームは協力や交流を目的としたものが多くあり、そこは世界的に見ても独特な文化なのかなと思います。

松本
確かに、日本のゲームは海外のゲームと比べても戦いの要素が少ないものが多いですよね。文化的背景を考えてみても、ゲームって奥が深いんですね。

加藤先生
特に、任天堂などはそのあたりを考えて、ゲームからのコミュニティづくりをやっている気もします。日本ならではのゲームだからこそ、コミュニティ作りの基盤になるようなソフトが沢山あるのではないかと考えています。

加藤先生とゲームのつながり

松本
先生がゲームを研究しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?また、そもそものe-Sportsとの出会いを教えてください。

加藤先生
これまで、NHKスペシャルで放映された「ミラクルセンス」や「ミラクルボディ」などの撮影協力をしてきたの中で、サッカーの著名な選手がウィニングイレブンというゲームを小さい頃からやっていて、ゲーム大会のチャンピオンと戦ったら勝ってしまった経験を聞きました。その時、プレイそのものを俯瞰で見ることや、次の戦術を考えるきっかけになったということを知って、興味を持ちました。

松本
あの○○選手(伏字にしています)もゲームをされていたのですか!
一流プレイヤーは一流ゲーマーでもあるのか気になるところです。

加藤先生
また、ワールドカップの最中にも代表選手達が皆で練習がてらゲームを楽しんでいるとう話を聞いて、面白いなと興味を持ちました。

松本
実際の研究をやっていく中で、ゲームという接点にたどり着いていったんですね。
ちなみに、先生もゲームをプレイされるんですか?

加藤先生
やります(笑)
昔はよくドラクエなんかをプレイをしていました。
最近は小学生の娘がドラクエにハマってしまい、妻が心配しています(笑)

松本
親子でゲーム好きなんて、さすがは加藤先生の娘さんですね(笑)

加藤先生
ちなみに、研究室の後輩でドラクエのプロデューサーをやっている人もいたりと、人生っていろいろなつながりがあるなと感じました。その彼がプロデュースした新しいドラクエを娘にプレゼントするために、最近NINTENDOスイッチを購入したのですが、結局私がプレイしています(笑)

松本
先生、真面目な顔してとってもお茶目じゃないですか!(笑)

加藤先生
最近はそのスイッチで「Fit Boxing」というゲームを家で娘とやってみたのですが、これが結構いい運動になるんです。こういうゲームをプレイすると、皆で楽しみながら気軽に遊べるゲームは、健康になるための運動のきかっけになるのではないかと感じています。

みらいのまちをつくるラボで取り組むべき課題

加藤貴昭先生

松本
大井町は今後どのようなまちになっていくと思いますが?
また、どんな町にしていきたいですか?

加藤先生
もっと交流ができるような場所がほしいと思っています。今後、駅周りの再開発が行われる事も考えると、区として気楽に皆が集まれる場所というのが必要になってくるのではないでしょうか。そこに集まってきた人が何をやるのかという点で、e-Sportsがきっかけになればいいと思っています。人が集まってきた時に、健康などの効果がちゃんと提示できるように、準備をしておくのがみらいのまちをつくるラボの仕事かなと。

松本
だんだんと大井町とe-Sportsのつながりが見えてきました。何かゲームをきっかけに色々な人が集まれる場所になりそうですね。

加藤先生
誰でも参加OKの無料のゲームセンター・・・みたいなね。

松本
なるほど・・・!コンセプトはそれですね!
最後に、加藤先生から読者の方になにかメッセージはありますか?

加藤先生
e-Sportsにはいい面と悪い面があると思っています。国体の種目として取り上げられたり、オリンピックの正式種目にもなろうとしています。今後もゲームをやり続けるのが良いのかという議論は続いていくのだと思いますが、ゲームをやると何が良いのか、何が悪いことなのか、をきちんと研究しないといけない。それは研究者としても、みらいのまちをつくるラボとしても、やっていくべき課題だと感じています。

松本
確かに、最近はゲームのネガティブな情報を見る機会は減ったと感じています。
一時期はすごいバッシングがあった時期もありますよね。

加藤先生
WHOがゲーム障害という精神疾患を発表したのを知っていますか?

松本
いえ、知らないです。

加藤先生
これはゲーム障害という名称ではあるものの、実際はネットゲーム障害に近いという指摘もあるようようです。
つまりゲームというよりネットに依存してしまうことによる障害。この様なゲームが持つ二面性は、今後の研究をしていく上での大切な側面だということも忘れてはいけないと思っています。

松本
あくまでゲームを研究するだけでなく、ゲームを通じた街づくり、そしてゲームから生み出す健康や安全まで考えて研究されていらっしゃるんですね。研究会のメンバーにもお会いしましたが、皆さん笑顔で楽しそうなのが特徴でした。

加藤先生
学生だけじゃなく、私も楽しみながら、そして大井町に住みながら研究をすることに意味があるのかなと思っています。これからを楽しみにしていてください。

松本
今回はお時間を頂きましてありがとうございました。

加藤先生
ありがとうございました。

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みらいのまちをつくる・ラボ > トピックス > 加藤貴昭准教授インタビュー/e-Sportsの研究