MENU

大井町コミュニティキャンパスプロジェクトは、2022年7月7日(木)20時から、多世代型シェアハウス研究会の第12回『コレクティブハウスの暮らし』を開催しました。主催は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の福澤涼子です。ゲストにNPO法人コレクティブハウジング社の代表理事宮本諭さんをお招きして、そのコンセプトや実態、取り組みについてお話を伺いました。

【勉強会概要】
日時:2022年7月7日(月) 20:00~21:30
開催方法:オンライン(Zoom)
参加者:15名(およそ70%が2回目以上の参加者様です!いつも有難うございます)
参加費用:無料
ゲスト:NPO法人コレクティブハウジング社の代表理事宮本諭さん
主催・モデレーター:福澤涼子/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

<ゲストプロフィール>
宮本 諭(みやもと さとし)さん
特定非営利活動法人コレクティブハウジング社(CHC)代表理事。
北欧発祥のコレクティブハウジングを手本に、日本ならではの自主運営型コレクティブハウスの立ち上げ・運営を支援。住民が主体となる住まいづくり、まちづくりをサポートし、コレクティブハウジングを広く普及啓発する活動を行っている。自身もコレクティブハウスに居住し、16年目を迎える。現在は、3歳から70代までの大人14人、子5人が住むコレクティブハウスに家族3人で暮らしている。

コレクティブハウジング社について 
1970年代に北欧で生まれた自主運営型のコレクティブハウジングを手本としながら、住民主体のまちづくりやワークショップの手法を取り入れ、日本ならではのコレクティブハウスづくりを実践。コミュニティが抱える多くの課題を解決する可能性を持つコレクティブハウジングを広く普及啓発する活動をはじめ、コレクティブハウジングの立ち上げと運営を支援しています。
ホームページ
NPOコレクティブハウジング社 YouTube 公式チャンネル

【勉強会レポート】
今回も、開催した勉強会のエッセンスをこのレポートでご紹介します。
今回の勉強会はコレクティブハウス
これまで学びのテーマとしていた「シェアハウス」の定義を「台所、風呂、トイレなどの水回りを共同で利用しながら非親族同士が住む形態である」とした場合、コレクティブハウスは多少異なります。なぜなら、コレクティブハウスには各個室の中にまた「台所、風呂、トイレ」などがあり、加えて共同のキッチンやダイニングがある住居形態となります水回りは個別のため、シェアハウスと比較しても、よりプライベートな空間や時間は確保できる上に、豊かな共有スペースがあることで、一般的なマンションとも比べても、人との繋がりの中での生活が可能となります。

今回の勉強会では、その暮らしの様子や価値を学んでいきます。

【コレクティブハウスの基本】
勉強会の前半は宮本さんから資料を元に、「コレクティブハウスの基本」について、お話いただきました!

◆コレクティブハウジング社について
今回登壇いただいた宮本さんの所属するコレクティブハウジング社は、「自立的な協働のくらしづくり」を支援するために、コレクティブハウスに居住したいという人々の暮らしづくり支援と、物件のオーナー・事業主を繋ぐコーディネートを行なっているNPO法人です。

入居後にも運営のサポートをしながら、居住者の声を事業主に届けたりなどして、その生活を支援しています。運営のサポートと言っても、共有部の清掃をするとか、ルールをつくるという役割ではありません。あくまで自治で行われるその暮らしを、陰でサポートしたり、何かトラブルがあった時に関与して解決をフォローするような役割のようです。

▲当日の宮本さんの発表資料より※現在は所在地は多摩市に移転。

◆コレクティブハウスの歴史
コレクティブハウスの歴史は古く、1930年頃の北欧、スウェーデンでスタートしたとのことです(とても歴史があるんですね)。
背景としては、女性の社会進出。共働きが一般的になっていく過程で、その家事負担をいかに軽くしていくか?という視点から生まれた住居でした。

興味深いのはその変遷です。最初は、家事サービス付きの住居、いわゆるホテルのような住まいからその歴史はスタートしました。

しかし、「家事はすべての人、男性、女性の責任であり、社会への貴重な貢献である」という考えへと移り変わり、1970年代に現在の日本でみられるコレクティブハウスのようなセルフワークモデルに関心が変わっていきました。

セルフワークモデルとは、外部の人が家事をサービスとして行うのではなく、住人同士で協力しながら料理や子育てをしていこうというもの。男性や女性などの性別関係なく、住人ひとりひとりが家事・育児の責任を分担していくことで、協働で料理を分担でつくるコモンミールという仕掛けも当時からあったそうです。

そうした北欧の流れをみて、日本では、1990年代に住まいのあり方を研究するグループ(ALCC)が発足し、その後、2000年にコレクティブハウジング社が設立して、徐々に広がりを見せている、というのがその歴史です。

◆コレクティブハウスの特徴
(1)コモンスペースがあること
住人同士が交流できる「コモンスペース」があることが、その特徴の一つということです。コモンスペースは物件によりさまざまですが、宮本さんのいるコレクティブハウスでは、コモンルーム(コモンキッチン・ダイニング)、コモンテラス、コモンランドリー、そして中廊下の部分が住人同士が共有しているスペース。その共有空間で自然発生的に交流が図られているそうです。

特に、廊下はもともと児童館だったこともあり、広くて長いので、子どもたちの格好の遊び場!時々スピード違反で取り締まりが行われているそうです(笑)

(2)コモンミールがあること
交代で住人同士が食事を提供しあっているというのは何より大きな特徴です。その当番は月に1回ほど回ってきます。逆に言えば、月に1回だけ食事を作れば、それ以外の日は、夕食をつくる手間がないということ。

勿論、食べる日だけ材料費(425円)を出す仕組みで、食べない日があっても良い。食べる日も、コモンルームで食べても良いし、自室に運んで食べても良いそうです。

コレクティブハウスはみんなで一緒に食事をとるイメージがありましたが、各々が好きな時間に食事を取り、偶然そこに居合わせる人と会話しながら食事をするということのようです。こういったことも自由を重んじているからこそなのかなと感じました。

コレクティブハウスの一例の間取り※当日の宮本さんの資料より

 

◆コレクティブハウスの日常の風景
勉強会では、コレクティブハウスの日常の風景を写真を使って説明いただきました。

(1)子どもにとってのコレクティブハウスの日常
写真には、子ども同士が遊んでいる風景が写っていました。
多い時には九人くらいの子どもがいたそうで、非常に賑やかだったとか。中廊下でレースをしたり、大きなプラレールをコモンルームに広げて遊んだり、小学生くらいのお姉さんが、未就学の年齢の子どもに本を読んであげたりしている様子が写っています。

プロジェクターを使ってみんなでゲーム大会をすることや、一緒に宿題をやることもあるそうです。

(2)子どもと大人の交流の様子

子ども同士だけではなく、コレクティブハウスに暮らす単身の大人と子どもとの交流もみられます。お菓子作りが得意な大人が子どもと一緒にデザート作りをしたり、ミシン作業をしている大人の横で、子どもたちが興味津々で覗き込んでいる様子が写っていました。

そういった時間、両親は手が空くので、自室やそばで他のことをしているそうです。

(3)大人同士の交流の様子

大人同士は自然と飲み会が発生するそうです。写真では、23時すぎの女子会の様子が写っていました。子育て中の人だけではなく、もう子育ては終わった人など、いろいろな世代の人が集まり会話ができることで、幅広い視点で自身の子育てを捉えることが出来そうです。

講師:宮本諭さん

【質疑応答】

コレクティブハウスの基本のお話を受けて、参加者の皆様から沢山のご質問をいただき、後半は宮本さんにお答えいただきました。

まずは主催の福澤から質問させていただきました。

福澤:お話のなかで、多様な人々が暮らせるように間取りを設計しているという点が出ましたが、入居者の選別をしたり、人によっては入居をお断りするということはないのでしょうか。

宮本さん:我々は選別していないですね。ただ、「ここに来るといつも寂しくない」と考えている人や周りに依存しそうだなという人には、事前のオリエンテーションでそうではない旨をきちんと伝えるようにしています。けどコーディネーターが先に、「この人ちょっと厳しいかもしれない」と感じた人でも、実際は馴染んで暮らすことが多いことを考えると、最初の印象もあてにならないし、その人次第なのかなと言う感じはしますね。結局大事なのは、相手が求める距離感と、我々の実際の距離感が合うかどうかなのかなぁと思います。結局は、距離感が大事なんですよね。

福澤:なるほど。距離感という話では、自由と自律を重視しているコレクティブハウスだと思うんですが、一方で自己責任が強くなりすぎるのも、コレクティブハウスの暮らしではないような気がしていますが、その辺りはいかがでしょうか。

宮本さん:そうですね、その点は僕もよく考えるのですが、自分の思っていることを言えること」が自律かなと考えています。もし何か住人同士で嫌なことがあった時に、なんでもコーディネータ―を頼るのは、自律が出来ていない状態かなと。互いに言い合っても大丈夫というように、尊厳というものがベースで守られている前提で、嫌なことがあったら本人に言う。言われた側としても、そちらの方がスッキリしますよね。

福澤:私もこの生活をしていると、依存と自立のバランスは難しいなと感じます。

宮本さん:そうですね。個人同士が調整しあって、ここは違うんだな、けどここは一緒だよねと確認する。まぁ勿論モヤモヤもしますよね。モヤモヤとスッキリの連続の暮らしなんじゃないでしょうか。

福澤:なるほど。「モヤモヤとスッキリの連続の暮らし」というのはしっくりきますね。だから、住んでから調整していけば良いという考えで、入居審査をしないということなのですね。

宮本さん:そうですね。他の入居者による入居審査があるということは、入居後も他の入居者から出ていってくださいと言われることにつながります。そうすると、相手の顔色伺いながら生活することになって、そんな生活嫌じゃないですか。だから入居審査はせずに興味のある方がタイミングが合えば、誰でも入居可能としています。

◆コメントでいただいた質問

Q.先ほど、依存しそうな人は厳しいというお話もありましたが、いろいろな属性がいる方が依存が防げるとかあるのでしょうか。

宮本さん:詳しく分析しているわけではないので、わからないですが…ただ、外国人や大学生だと最初から違うという前提があるので、「あ、今の大学生だとそんなこと考えているんだ」とか。わからないことを前提にきちんと会話で解決しようとしますよね。

そういうことがやっぱり必要だったりするかなぁ。

北欧でシニア向けのコレクティブハウスも作られているようなのですが、やっぱりなかなか続かないというお話も聞きます。自分の常識が通じない相手と暮らした方が、自分が解放されるという一面はあるのではないでしょうか。

Q.コレクティブハウスを始めたい時の始め方を教えてください。

宮本さん:最初の仲間作りが成功の鍵だと思いますね。オーナーさんにとっては事業ですので、最初から、賃貸住宅が埋まるということが重要なんですよ。立派な建物だけを作っても、人が住まないと意味がないので。

仲間づくりというのは、定期的に開催している勉強会から興味のある人を募って、みなさん、住みたいエリアがあるのでそのエリア毎にグループを作っていくようなイメージですね。

Q.暮らしのジェンダーバランスを教えてください。

宮本さん:女性が比較的には多いのですね。旦那さんと離婚されて、シングルになったけど、人とつながる暮らしがしたいと選ぶこともあるようです。あと、子育て中の世帯は男女いますね。大学生は男女そこまで関係なく住んでいる場合が多いかなと感じます。

Q.シングルマザー、シングルファーザーもいますか。

宮本さん:はい、住み心地は良いようですよ。何かと安心なのだと思います。僕の話になりますけど、出張にいった時に、家族が心配で出張先から連絡したりするじゃないですか。だけど、コレクティブハウスだと、互いに連絡取り合ったりしない。何かあれば、連絡がかかってくるので。自分の不在時に何か起こっていないか、という心配がなくなったんですよね。

あと、少し話はズレるのですが、晩御飯の時にもこの暮らしに救われます。奥さんがご飯を作って待っているなか、旦那さんが「ごめん、今日飲みに誘われて・・」となれば奥さんはイライラすることもありますよね。だけど、この暮らしであれば、ご飯が準備されているし、自分が帰らなくても奥さんは隣の人と一緒に楽しく夕食をとっているので。

家族という機能が分解されている印象で、父親でなくても出来ることの一部を、他の住人がやってくれているようなイメージです。

Q.逆にデメリットはないのでしょうか。

宮本さん:自分の居住スペースだけではなく、共有部の清掃をしないといけないとかね。あとは、こういう暮らしだと、みんなと仲良くできるかなと心配される方もいると思います。ただ、人間関係では「仲良くなろうとしすぎない」ことが重要だと思っています。「仲の良さ」と言うよりは、「この暮らしを一緒に作っていく仲間」だと考えを振り切るとすごく楽です。仲良くするとなるとお互いが一緒であるべきだと考えてしまうかもしれないですが、この暮らしだと、あくまでお隣さんであるので、好きとか嫌いとかではない

近くでみんなでお花見に行きたい時に、「友達だから絶対行かなきゃ」とか「絶対来てほしい」と言うのではなく。

そういう意味では、結構な人数がいると、企画したら誰かしらが乗ってくれるんですよね。だから、寂しい思いをすることもないし、ある程度の人数がいることは大事かなと思いますね。

Q.住む人が大事にしている価値観のようなものは、共有しているのでしょうか。

宮本さん:コレクティブハウスを作る際に、居住者組合で「大事にしているもの」を言葉にはしています。ただ、だんだん薄れていっているかな。昔からの居住者が先輩風を吹かせるという暮らしにはしたくないとみんな考えています。この暮らしの良いところ、大事にしたいことをテーマにワークショップを実施することがありますが、その場合も居住年数に関わらずあくまでフラットです。長く居住している人にとっても、居住年数に関わらず、居住者同士がフラットであることが、この暮らしの心地よさにつながっています。だから、私自身も住んで長いですが、最初に作った言葉にそこまで固執していないですね。

Q.家賃はどうやって決まっているのでしょうか。

宮本さん:「安い」と言うだけで住む人が現れるのはよくないというのはあります。なので、その周辺の家賃相場とほぼ一緒のことが多いです。もちろん、家賃は同額でもコレクティブハウスは、充実したコモンスペースがある分、プライベートスペースは狭く、ファミリー向けでも都心の物件では40~50平米ほどです。

確かに、「そのスペースだと家族3人で暮らせない」と、最初は思うと思います(笑)ただ、この暮らしをしていると、子供は基本コモンスペースで朝から晩まで遊んでてくれるので、意外といけてしまうのですよね。

それに面白い例としては、最初に広い部屋を借りたけどこの暮らしをしていると、こんなに必要ないと思われて、狭い部屋に移るケースはありますね。

(↑広いところから狭い部屋に移るというケースは、シェアハウス経験者からは頷きの声が出ていました。シェアハウスあるあるなのかもしれません。)

最後に宮本さんから

宮本さん:僕自身の入居動機としては「程よい関係の隣人が欲しかった」だけなんですよね。ただ当時、今みたいに多世代型のシェアハウスというのもなかったし、運よくコレクティブハウジング社と出会ってそれだったらと住んでみた。

ただし住んでみると、多世代シェアハウスと同じかも知れませんが、面倒臭いことも沢山あるんですよね。小さくても自治をするというのは大変です。でもだからこそ、みんなで自由でいられる部分もあります。

それをすごく面白いなと思っているので、そういう人は住めるし、それがしんどいと思う人には厳しいと思います。

だけど、一言で「コレクティブハウス」と言っても、「生活」だったりするので。生活は、言語化したそばから変わっていくし、他の住人からしたらまた違うように映っているかもしれません。だから、今日お話したことはあくまで僕から見えているコレクティブハウスと思ってもらえればと思います。

◆主催・福澤から(開催後の感想)

現在の日本と当時のスウェーデンは似た部分もあるのかもしれません。2000年代以降、日本では共働き世帯の方が専業主婦がいる世帯よりも多くなっており、その数は増加傾向です。加えて、諸外国と比較しても日本人の家事・育児に費やす時間は長いと言われていますので、家事・育児負担をいかに効率良く全うしていくのかは、現代の我々とも通じるテーマだと感じます。もちろん、家事代行サービスなど外部サービスに頼むという選択肢もあると思いますが、それを協働でやることで各々の負担を減らす、そして繋がりがあることで日々の安心感や、自然と生まれる会話から日常も豊かになる。このように、コレクティブハウスには家事・育児をどう効率化するか以上に、豊かな価値を生み出しているのだなと感じました。いつか私も住んでみたいです!

この記事をシェアする

みらいのまちをつくる・ラボ > プロジェクト > 大井町コミュニティキャンパスプロジェクト > 【開催レポート】多世代型シェアハウス研究会12『コレクティブハウスの暮らし』を開催しました