
【概 要】
日時:1月20日(火)15時から16時半
講師:国土交通省 都市局 街路交通施設課 課長 筒井祐治 様
場所:慶應義塾大学SFC研究所大井町みらいのまちをつくる・ラボ
参加者:43名
参加費:無料
【プログラム】
■開会挨拶 慶應義塾大学 環境情報学部 厳綱林教授
■講演
1.「居心地がよく歩きたくなる」まちづくりとは
2.ウォーカブル政策の歩み
3.国内事例
4.参考資料
■質疑応答
■閉会挨拶
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■ 開会挨拶
はじめに、厳教授より、本補助事業の概要およびFCDSの取り組み、本講演の企画趣旨や経緯等の説明とご挨拶がありました。

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講演
「国土交通省都市局におけるウォーカブル政策の展開について」
1.「居心地がよく歩きたくなる」まちづくりとは
近年、日本では外出率や移動回数が減少傾向にあります。国が実施するパーソントリップ調査によれば、2010年頃を境に外出行動は減少しており、スマートフォンの普及やEC、オンライン会議の拡大によって、生活の多くがサイバー空間で完結するようになっています。その結果、まちが人を外へ引き出しにくくなっている状況が生じています。
こうした社会変化を踏まえ、都市空間を人中心の視点から再構築することが求められています。街路は本来、移動・交通を担う「リンク」と、滞在や活動を生み出す「プレイス」という二つの機能を併せ持っています。しかし、戦後の制度整備の中で、街路は主に車両交通を前提としたリンク機能に偏って整備されてきました。現在は、この二つの機能を改めて適切に再配分することが重要な課題となっています。
ジェイン・ジェイコブスやヤン・ゲールによる都市論の中では、人の活動を起点とした都市空間の重要性が繰り返し指摘されています。歩行や滞在を促す空間は都市の魅力や可能性を高め、ウォーカビリティの高い都市ほど経済的価値も高いことが、各種データから示されています。
また、都市機能を集約するだけでなく、人中心の空間を形成して交流を活性化することにより新しい価値創造やイノベーションを起こす都市像として「コンパクト・プラス・ネットワーク」の文脈もあり、ウォーカブルなまちづくりを推進する動きは活発化しています。
「居心地がよく歩きたくなるまち(ウォーカブル)」の構成要素は、
W:Walkable(歩きたくなる)
E:Eye level(建物1階がまちに開かれている)
D:Diversity(多様な人・用途・使い方)
O:Open(開かれた心地よい空間)
が組み合わさった街路空間であると整理することができます。

2.ウォーカブル政策の歩み
ウォーカブル政策は、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」での議論を契機として発展してきました。成熟期を迎えた都市においては、人や活動、交流をいかに活発化させ、イノベーションにつなげるかが重要な課題であるとの認識が共有されました。
人口減少が進む一方で、都市間競争の激化やウェルビーイングの低下、ソーシャルキャピタルの弱体化といった課題も顕在化しています。こうした背景のもと、官民の公共空間と民間空間を一体的に捉え、人中心のウォーカブルな空間へと転換していくことが求められています。
この動きは、ニューヨークや丸の内におけるストリート再編、パリの「15分都市」に象徴されるように、国際的にも広がりを見せています。
日本においては、「都市再生特別法(令和2年改正)」がウォーカブル施策の重要な制度となっています。同法は、ゾーニングや規制を中心とする都市計画に対し、都市空間を実際に変えていくための実践的な法律として位置づけられています。特に、歩行のしやすさそのものよりも、滞在快適性や公益性の向上を重視している点に特徴があります。
具体的には、
・「滞在快適性等向上区域」の指定による交付金・税制支援
・建物1階部分の改修や社会実験への支援
・ほこみち制度による道路占用の柔軟化
・駐車場出入口規制等の手続き特例
などが整備され、官民連携による取り組みを後押ししています。さらに、金融支援や都市再生推進法人の指定など、担い手を支える仕組みも拡充されています。昨今「滞在快適性等向上区域」の指定が広がっており、本施策への関心の高まりがうかがえます。
一方で、ウォーカブル施策の効果は一様ではなく、空間整備のみでは十分な成果につながらない事例も報告されています。成功している地区では、整備後に活動やコンテンツが継続的に展開されており、空間整備と都市経営を一体的に考える視点が重要であることが示されています。
3.空間整備の先にある都市経営の視点と国内事例
ウォーカブルな空間を整備した後には、その空間をどのように使い、育てていくかが問われます。
まちなかに居心地の良い空間をつくったのちに、吸引力(コンテンツ)をどうつくるか、についてまとめた「共感都市再生ビジョン」では、以下の視点が重視されています。
・地域の歴史や文化を踏まえた、都市固有の魅力の再定義
・都市の余白や隙間を活かしたパブリックライフの創出
・技術革新を踏まえた都市の価値創造・ブランド力の転換
・観光や交流人口も含めた都市の稼ぐ力の強化
・空間形成から活動創出へと視点を移すパラダイムシフト
都市再生は、空間を整備すること自体を目的とするのではなく、継続的な人の流れや活動を生み出す都市経営として捉えることが重要です。
国内事例として以下を紹介します。
・御堂筋(大阪市)
御堂筋では、社会実験を通じて段階的にウォーカブル化を推進しています。行政と民間事業者が連携して警察との継続的な調整を行っている、官民連携の好事例。
・出雲大社周辺
従来、車両が侵入していた参道空間の車道の中心線を消すなどの工夫により、歩行者中心の空間へ転換した例。構造変更を行わずとも、空間の使われ方を変えた事例。
・姫路駅周辺
車と歩行者空間の割合を反転させる大胆な再編を実施した例。丁寧な議論を経て最終的に決断され、結果として歩行者通行量の増加や地価上昇につながりました。ほこみち制度を活用し、想定を超える空間利用の変化を生み出した好事例。
・松山市・花園町通り
オフィス街である花園町通りでは市の助成によるシェード設置がうまく機能。ロープウェイ通りは日常的な賑わいが高く、空間の質以上に地域主体による活動の有無が活気を左右していることが示されている事例。
・群馬県前橋市
Social Impact Bond(成功報酬型ボンド)を活用するなど民間主導の取り組みが活発。水路沿いにベンチを設置し、飲食やイベントで活用するなど、親水空間を核とした滞在型利用が定着しつつある事例。
■ 質疑応答
Q1.大井町のように複数の交通手段、特に自転車問題が顕在化する中ではどうしたらウォーカブルな環境がつくれるか?
A.車道を歩道空間へ再編することや、自転車専用レーンの整備、新たなモビリティの導入、時間帯で使い分けることなどが考えられる。あわせて、まちなかを面的に捉え、乗換が可能なハブ(交通結節点・交流空間)を整備することも有効である。都市部では実現が難しい場合もあるが、既存の空間や空き地を有効に活用する工夫が重要となる。
Q2.ハード整備は誰が「主導」するとうまくいくか?
A.道路整備は行政が主導する例が多いが、事例で示したとおり、整備後の活用を担う市民や民間事業者の存在が重要である。
Q3.事例では西日本が多い。どのような自治体が成功しやすいか?
A.一概には言えないが、首長のリーダーシップ、職員の熱意や主体性、市民による継続的な活動が存在し、これらが相互に連携している点がうまくいっている事例に共通してみられる。
Q4.大型商業施設ができた際に街が一体的に「にぎわい」をつくるにはどうしたら良いか?
A.競争するのではなく、大型商業施設の集客力を活かしつつ、沿道やアクセス動線、結節点の整備によって回遊を促すとともに、既存エリアのコンテンツを充実させ魅力を高めることで、エリア全体の連続性と回遊性を向上させることが有効である。
Q5.街路整備のための支援制度はどのようなものがあるか?
A.さまざまな支援メニューがある。市区町村が官民一体で都市再生整備計画をつくる際に活用できるものなどは、まちづくりの機運を高めるという効用もあり有効だ。
Q6.都市再生推進法人は組織の主体、財源はどのようなものか。
A.都市再生推進法人は地方公共団体が指定する制度であり、指定自体に助成が伴うものではない。指定された信用供与、自治体も連携がしやすくなるというメリットはある。活動資金は、企業が周辺テナントから会費を集める例や、商店街の駐車場収入などの固有財源を活用する例がある。組織形態は、大企業主導、まちづくり協議会やTMO、地域まちづくり団体・NPOなど多様。企業主導型は不動産価値、エリア価値向上を目的とする例が多くみられる。地域住民主導型、企業主導型それぞれメリット・デメリットがある。

■ 閉会挨拶
おわりに、厳教授より本日の講演への謝辞が述べられ、あわせて3月16日開催予定の「大井町みらいのまちをつくる・ラボ」年次報告会の案内があり、閉会となりました。
