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多世代型シェアハウス研究会の福澤涼子は、多世代型シェアハウスの一つの形態として『高齢者の持つ自宅(隣接する家屋)の空き室に若者に住まわせるシェアハウス(異世代ホームシェア)』について取材調査いたしました。今回はその実践者の声を一部紹介いたします。

異世代ホームシェアとは?

「異世代ホームシェア」とは夫婦もしくは単身の高齢者が住む家の空き部屋を活用して、血縁関係のない若者と高齢者が共同生活を送るという仕組み。それぞれ自立した生活をすることを前提としつつも、可能な範囲で交流や助け合いを行います。こうした住まい方は、1990年代にスペインから始まり、その後ドイツ、アメリカ、ベルギーなど欧米諸国で広く取り入れられており、日本でも注目されはじめています。

厳密には今回取材した3組のうち2組は、同じ居住空間に暮らしているというわけではありませんが、高齢者自身が持つ家屋を若者に貸し、日々交流しながら暮らすという点では、類似した暮らしと言えます。そうした暮らし方を選んだ理由や、その魅力や課題について尋ねました。

<ケース①:水野さん(74歳・男性)>

・2023年4月から東京都西東京市にあるシェアハウスを営みながら、本人もそこに暮らす
・現在は20代の3名と水野さん4人で1軒家に暮らしている

福澤)ご自宅をシェアハウスにしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

水野さん)母親が亡くなったあと、住んでいた古い家を壊さずに残す方法はないかと考えたことがきっかけでした。この家にはもともと母親が一人で住んでいたのですが、介護が必要になったため私自身もここに住み、介護をしていました。その母が3年前に亡くなり、家は古いし処分しちゃうつもりでいたんですよね。ただやっぱり思い出があったりとか、古いんですけど逆に今作ってる家と比べると、構造とかすごいしっかりしてるんですよね。

それでたまたま私がDIYが好きなものだから、自分で直してみようかなと。その時に、せっかく直すんだったら誰かに住んでもらいたいなと思ったのがきっかけでした。

福澤)確かに内装が、すごくオシャレですよね。

水野さん)ありがとうございます。約1年間かけて自分で直したんですよ。手間をかけて作ったから、誰かに住んでもらって、それで喜んでくれたら嬉しいなと思って。料理が趣味な人が、人に食べてもらうと幸せというあの感覚に近いと思います。

あと、思い上がった考えだと思いますが、せっかくならば住む場所に困っている人の助けになれたらと言うことを考えていました。それは結果的に入居者は年配の方や社会的に弱い方が多くなるかと思っていました。実際は、この内装に共感してくれた若者が多いですが、おひとり、他のシェアハウスで年齢が理由に断られてしまったという方も住んでくれています。

福澤)知らない人とのシェアハウスは不安がなかったですか?

水野さん)あまり不安はなかったですね。もともとペンションを長く経営していて、生活のなかに他の人がいるということに慣れていたんだと思います。当時もどんな人が来てくれるかなということを楽しみにしていて、シェアハウスも同じ感覚です。勿論、この家をまるまるシェアハウスとして貸して私は別に住むという選択肢もあるのでしょうけど、私の気持ちとしては住んでくれる皆さんと新しい感覚で生活したいなと思いました。

福澤)改修にかかる初期費用とか、その後の運営は大変ではないですか?

水野さん)確かに、シェアハウスにしてはオーバースペックなくらい直してしまいましたね(笑)こんな無垢材を使う必要はないのでしょうけど自分でほとんど作業を行ったので、業者にお願いするよりはかなり抑えられていますよ。

ただ、老後の貯金を切り崩したことは確かなので、入居者さんを紹介してくれる業者さんに相談して事業計画書みたいなものを作ってもらって、数年でペイできるようにとは考えています。あと、運営としては、共用部の清掃などを私がやっていますが、ペンションにいた頃と比べると何時までに絶対終わらせないといけないとかはないので、だいぶ楽ですよ。

福澤)それ以外に、たとえば人間関係などで大変だったところはありますか?

僕自身はそんなに大変なことはなかったですね。ただ、住人同士でギスギスしてしまっているかなという時には、自分がどう立ち回ればよいのか迷いましたね。そんなに突っ込むわけにもいかないし。住人を紹介してくれる事業者さんが「何かあれば相談ください」って言ってくれているので相談すればよかったのですが、その時は相談せずにいてしまって・・。相談していればもっと上手く解決できたのかもしれないですね。

あと、当たり前ですけど、家のなかに他の人がいますので、下着姿で歩かないようにとか多少は気を遣いますかね。

福澤)シェアハウスを始めてどんな点がよかったと感じますか?

水野さん)気持ちの面では誰かがいてくれるというのは、やっぱり良いですよね。家に1人で暮らしているより、朝起きたときに誰かいて「おはよう」って声かけるだけでも全然違うと思うんです。そういう点で、僕自身が助かっているって思いますね。

あとは、安心感もありますよね。やっぱり人と人との関係って大事だと思うんですよね。うんよくほら、孤独死っていうかね。年寄りが1人だけで暮らしていると、寂しいイメージというか・・。誰か一緒にいてくれることによって、自分が少し豊かになれてるっていう感覚があります。かといって、そんなに毎日沢山会話するわけでもないんですよ。夜ご飯も一緒にとることもあまりないし。もちろん、毎日夜ご飯を一緒に食べるというのも良いとは思いますけど、でもやっぱ拘束されちゃうと不自由になっちゃいますよね。お互いに縛らないで、ゆるくつながる感じが良いんじゃないかなと思います。

<ケース②:豊田さん(70歳・女性)>

豊田さん宅の概要
・2020年から埼玉県草加市のシェアハウス(5部屋)を運営。本人は同じ敷地内の隣の家屋に家族と共に居住しながら行き来する生活をしている。

福澤)シェアハウスをしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

豊田さん)60代に入るくらいの時に、「新しい家を建てたいな」って思ったんですよね。年齢的にも最後のチャンスかなって。それでこのシェアハウスのすぐ隣に新築の家を建てた。そうしたら、「あ、この古いほうの家どうしよう」って(笑)そのまま空き家にするのもあれだし、市役所に相談に行ってもあまり良い活用方法が見つからなくて。
そんな中で、昔に「いつかシェアハウスをやりたい」って具体的な間取りまでノートに書き出していたのを思い出して。それでやってみようかなって思ってシェアハウス事業者さんに問合せたのがきっかけですね。

ですので、普段は隣の家で生活はしていますが、ここのリビングは昼間地域の高齢者のためにコミュニティカフェを運営しているので、私はしょっちゅうシェアハウスの方にいますね。それで気付いた時に掃除したり、住人の子たちと会話したりしています。

福澤)さっき住人さんと会話されていた時もお互いため口でしたもんね。住人さんと仲が良いのだなとびっくりしました。

豊田さん)最初会った時は互いに敬語ですけど、時間がたつとため口で喋っちゃいますね。私が、おせっかいで心配性な性格だから、「野菜食べてんの~」とか、「帰りが遅いんじゃない?」などとつい言っちゃうこともありますね。若い女の子の帰りが遅いと心配で。帰ってくるまで、待っちゃったりして。過干渉にはならないようにとは思って気を付けているんですけど、ポロっと言っちゃったり。けど相手は心配されるとなんだか嬉しそうにしていますよ(笑)

福澤)大人になると、心配されることも減るので、心配されて嬉しいという気持ちも何となくわかります。普段は一緒に食事をとったりもするんですか?

豊田さん)もともとは、毎日一緒に夕食を食べたいなって考えていたんです。けど、住人みんな生活時間がバラバラだから。だから月に1回食事会を開いて、そこでは皆で食べるようにしています。普段、みんなコンビニのごはんだかり食べているから、「何食べたい?」って聞くと「野菜が食べたい」って言うから、野菜の沢山入った料理を私が作るんです。

福澤)食事会ではどんなことを話すんですか?

豊田さん)覚えていないですけど、いつもワハハ~って皆が笑ってて、あまり静かなことはないですね。食べ物の話とか、どうでも良い話ばかりだと思うんですけど、回を重ねるごとに盛り上がってどんどん時間が長くなっているんですよ。住人も「楽しかった」とか言ってくれて、そういうのも私は嬉しくて。あと最近は長く住んでくれる人が増えてきて、居心地の良さを感じてくれているのかなとか、そういうのも嬉しいですね。

福澤)素敵ですね。逆に大変なことはありましたか?

豊田さん)もちろん、色々と理想と現実のギャップはありました。合わない人もいて、その人が原因で自分の健康を崩しかけたこともあります。
それもあって今は入居者の方もしっかり選ぶようになりました。自分はお金のためではなく、自分の楽しさのためにシェアハウスをやっているんだから、無理して自分を犠牲にすることはない。だって、私と合わない人だって他のハウスだったら合うかもしれないからね。そう考えるようになってから、より運営も安定してきた気がしますね。

福澤)人間関係のストレスは大変ですよね。

豊田さん)けどこの年で「こういう人がいるんだ」ということを学べたのもシェアハウスをしているからですよね。それに嬉しいことも沢山ありますよ。たとえば、この間は自分の古希のお祝いを住人の方々がサプライズでお祝いしてくれたんです。突然メールが来て行ってみたら、飾りつけもしてあって、プレゼントも用意してくれました。頑張って続けるとこんな素敵なことがあるのかと思いましたね。
嬉しいことや喜びは沢山あるし、知り合いが増える感覚で刺激的なことが大きいかな。私はね、年をとっても人と関わっていたいんですよね。だから、住んでくれる人がいる限りは、ここで色んな人に会いたいと思っています。

<ケース③:M夫妻(60代)>

・2016年から藤沢市湘南エリアにあるシェアハウスを運営
・3階建ての建物のうち、1階を夫妻専用のスペースとして、2階・3階をシェアハウス(5部屋)として運営。

福澤)シェアハウスをしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

M夫)もともと僕はサラリーマンで、色々な場所に転勤してきました。50代になって定年も見えてきた頃、終の棲家をどうするか?リタイア後の生活を模索し始めて。ここ湘南だけではなくて軽井沢や熱海も見ましたね。けどやっぱり湘南って若い頃からの憧れの土地だったんですよね。サーフィンも好きだから。だから、この湘南の特にこのエリアに住みたいなって固まってきて、そこから2年くらいは土日のたびに東京から湘南に通って物件探しをしていました。

それで、このシェアハウスの物件を見つけたんです。元々はシェアハウスではなくて他の人が住居と事務所みたいな形で住んでいました。有名な建築家の方が設計しただけあって、すごく面白い物件だなって感じたんです。あと不動産業界で働く義理の父親から、「家を買うなら資産の設計という観点も持て」という話をもらって。ここだったら、広いし、誰かに貸して、家賃収入を得ながら自分たちも住むということもできるのかなって。あと、このあたりは人気が高いんですよ。だから、もし何かあったらすぐに売り手も見つかるだろうし。それで、その頃このエリアにシェアハウスはなかったから「やってみようかな」って。働いているうちにローンを組んで。そんな始まりでした。今はね、僕ら夫婦もここに住んでいますけど、買ってから3年くらいは東京に拠点があったので土日だけ来て、平日は住人だけの生活って感じでした。今は仕事もリタイアしたので、このハウスで一緒に暮らしています。

M妻)だから、「私たちの家」って感じもしないかな。入居のタイミングも一緒だったし、自分たちもあくまでシェアハウスの住人の感覚ですね。

福澤)もう8年もシェアハウスを運営されているということですが、どんな人が住んできたのでしょうか?

M妻)8年目でトータル40人ぐらい卒業生と住んできたんですけど、短いと3か月から長い人だともう3年以上住んでいる人もいるかな。例えば、大学生で住み始めて就職してからも住んでいる子もいるし。以前は高校生もいたなぁ、すごく頭が良い子で漫画を読みながら住人と喋りながら勉強しているような子でした(笑)
あとは、場所柄?仕事を休憩している子もいるかな。仕事を辞めて、ここに住んで、海とかこの環境に癒されてまた働き始める子とか。あとは何よりサーフィン好きな子かな。自由な働き方をしている人だと、午前中だけ働いて午後はサーフィンとかそんな生活をしていますね。

M夫)そうそう。だから僕も20代・30代の子たちといつもサーフィンに行っているんですよ。負けてられないでしょ?おかげさまで、ただのおじいちゃんにはならないでいられるなぁって思っていますよ。

福澤)その他、若者から学ぶこととかありますか?

M夫)色々な考え方を教えてもらっていますよ。僕は、1社のみで定年まで勤めた典型的なサラリーマンタイプ。ここに住む人たちは、転職してステップアップするとか起業が当たり前の価値観のなかで生きているので。あとは、「社畜にはなりたくない」って人もいたり。僕は典型的な社畜だったから、勉強になりますよね。リタイア後はボケっと暮らそうとか思っていたんですけど(笑) そうも言ってられないなというか、僕のなかでの次の目標みたいなものもできました。

M妻)私は、自分の中の常識みたいなものに、とらわれなくなったかな。「これが常識でしょ」というのを取っ払っていかないと、こういう暮らしはできないなって思うんですよね。「私だったらこうなのに」っていうふうに物事を考えちゃうと、うまくいかなくなる。お互いにストレスになっちゃうから、考え方の枠がなくなるんだなって。それが良い学びになっています。本当に今の人たちって本当に価値観が多様。仕事観だけではなく、結婚観も男女観も。こんなに色んな価値観があるんだなって。

福澤)逆に若者から相談や聞かれたりすることもあるのでしょうか?

M夫)就職活動で内定をもらった企業について、「ここに就職するのどう思います?」って言われたり。あと、「どうして転職せずに1社だけで働いたんですか?」って聞かれたこともあったな(笑)このシェアハウスを出て、近くに家を買いたいから、内見とか契約に着いてきてほしいって言われて、夫婦でついていったこともありますね。

M妻)あとは、彼氏・彼女の話とか。恋人ができたら紹介してくれるとか。1回結婚するって決めた子連れてきた子は、「これから親に会わせに行くから、まず最初に会ってほしい」って言われました。それで結局その子は入籍してね、子どもが生まれた子もいるし。自分の子どもにしては中途半端な年齢だけど、、なんか家族でもない親戚でもない微妙な関係だなって。

M夫)むしろ親に相談できないことや、親から言われても納得できないことも、第三者の僕たちだから相談できるということがある気がしますね。

福澤)退去された人たちがまたこのシェアハウスに来るということもあるのでしょうか?

M妻)クリスマスパーティーを毎年やっているので、そこには卒業生と、パートナーも連れてきてよいことになっていて。それにはけっこうみんな来てくれるよね。あとは、私がヨガのインストラクターをやっているので、定期的にヨガイベントを開くんですけど、そこにも来てくれる人がいますね。

M夫)あと、みんな湘南が気に入ってしまって、出て行った後もこの辺に住んでいる人も多いですよ。ですから、外から来た若者と湘南の地域をつなぐハブのような役割にもなっているのかなって。月に何回かこのシェアハウスで飲み会しているんですけど、電気がついていると近所の人が「電気ついてたから来た」とか言って、遊びに来たりしてね。そういうつなぐ役割を担えているのは嬉しいですね。勿論、湘南に永住しなくたって、数カ月だけでもこんな海に近いところに住むという機会は、一生のなかでそうないと思うんですよね。

福澤)ここに住むと湘南の地域の人ともつながることができるんですね。何だか聞いているとすごく楽しそうな暮らしです。こうした暮らしは誰でもできるものだと思いますか?

M夫)う~ん、正直なところ、実践するのはそう簡単じゃないと思う。僕らは多分こういう性格だから、ギリギリできているということもありますよね。あと、自分の家だと思わないように、そこは忘れないようにしようって夫婦でもいつも話しているんですよ。
自分ちだと思っちゃうと「俺んちなのによ〜」って思ってしまいそう。だから自分たちもシェアハウスの住人だと思うようにするということが大事な気がする。

M妻)じゃないと、全てにイライラしちゃうと思うんだよね。だから「住んでくれてありがとう」っていう気持ちは絶対忘れちゃいけないし。自分たちも住人だから、一緒に掃除したりしようねって思わないと厳しいんじゃないかなって。
それに全ての人が合うとは限らない。私たちはすごくいい子たちに恵まれたなって思ってるんですけど、もし自分にとって一番苦手な人だと・・それはわからないじゃないですか。そのときはきついんじゃないかなとは思う。

M夫)ストレスでイライラしながら、そこに住み続けるというのは苦行ですよ。老後になってまで苦行することはないと思うから、何のために住むのかという目的をしっかり持った方が良いと思う。やらなくてもいい環境で目的があまりなくて穏やかに暮らしたいんだったら、いやいやでやるものではないと思います。

M妻)その一方で、人がいてくれるのはやっぱり嬉しいですよね。そんなにベタベタした関係じゃなくても、何か音がするっていうのが人間らしいなとも思うんです。上にも下にも人が生きている。そう考えたときに、つながりって有難いなと思うんです。それをうるさいと思うか、温かい音と捉えるか、、だと思うんですよね。
M夫)僕は50代~60代の人たちのゴールデンエイジって呼んでいるんですけど。その年代で若い世代とか、これまで自分が触れあってこなかった人たちと出会うというのは、とても良いことだと思います。負けないぞという気持ちにもなるしね。

M妻)私たち夫妻にとってはメリットも沢山ある。けど、やっぱり大変なことも多いから、始めるにはそれなりの覚悟がいるんじゃないかなぁ。

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以上、血縁関係のない若者と家をシェアして暮らす高齢者の方々のインタビューでした。

高齢者にとっては人と同居することで安心感や日々の刺激、孤独感の緩和なども価値がある一方で、血縁関係のない人と住むという精神的な負担もうかがえます。

家族の機能が小さくなるなかで、家族以外のつながりで支え合っていくには、こうした負担やストレスにどう対処しつつ、関係を構築していくかという視点が重要となるでしょう。

少なくとも互いに「住まわせてあげている」「住んであげている」というような意識よりは、「住んでもらっている」「住まわせてもらっている」という意識で、相手を尊重、感謝し合いながら共同生活を送っていくことが大事になるのではないでしょうか。

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