【多世代シェアハウス研究会】豊かな庭を囲んで9世帯が暮らす「ちっちゃい辻堂」見学レポート
2023年12月2日(土)、多世代型シェアハウス研究会は「ちっちゃい辻堂」へのフィールドワークを行いました。以下、研究会を運営する慶應義塾大学SFC研究所 福澤涼子上席所員がレポートします。
ちっちゃい辻堂とは?
ちっちゃい辻堂は、“ゆるやかに集まってつくる土と繋がった暮らし”がコンセプトの戸建て賃貸住宅です。
辻堂駅と辻堂海浜公園のちょうど真ん中くらいにある敷地に、大家さんを入れて9世帯が自然(庭の樹々や鶏や、そこに集まる鳥や虫)と共に暮らしています。シェアハウスではなく、水回りが別々の一般的な住宅で、コモンハウスやお庭などを介して、住人同士がゆたかな繋がりを形成します。
今回、案内してくれたのは、「まきおさん」。以前は、シェアハウスに子育て中の親子と住んでいましたが、自身の結婚、そして子どもの誕生を経て、中学時代の同級生(大家の石井光さん)が立ち上げた、このちっちゃい辻堂に2023年2月に引っ越してきました。
引っ越した当初はちっちゃい辻堂が完成したばかりで、入居者も少なくコミュニティという感じではなかったそうですが、この空間や暮らしに惚れ込んだ入居者が集まり始めて、今では満室に。交流も多く見られるようになりました。
まきおさんと、娘ちゃん(1歳)まきおさんの自宅前の畑(大きな白菜や、ブロッコリーが育つ)にて。
ゆたかなお庭がある暮らし
ちっちゃい辻堂にたどり着いた我々がまず驚いたのが、その魅力的なお庭空間です。大家の石井さんは、小さい頃から昆虫が好きで、大学院時代には、カエルと虫の研究をしていたということ。実際に、虫やニワトリなど小さな生き物が沢山暮らしているお庭です。こうしたお庭を住民たちが共有しており、交流の場になっています。
ちっちゃい辻堂HPより photo by 奥田正治
研究会メンバーで遊びに来てくれた子どもは井戸が大好きで何度もやっていました。この井戸は大家さんと友人が一緒に掘ったそう。
フィールドワーク中、研究会のメンバーも、うとうとまったり。太陽の光も心地よく、その暮らしを身体で体感しました。まきおさんは、天気の良い週末にここで朝食を食べることもあるそう。
ちっちゃい辻堂の真ん中にあるコモンハウス、ここで月に2回ほど住人みんなで夕食をとっているそう。今回はみんなでパンをもぐもぐ。
お隣さんとの関係性
◆挨拶以上の関係性
私たちが見学している間も、住人とまきおさんとの間には、「今から◯◯に行ってきます」「昨日、カレー有難うございました」「喧嘩、仲直りできました?」などの会話が交わされていました。
現代では、挨拶以上の関係を隣近所と築いている人は少数というデータもありますが、ちっちゃい辻堂ではお互いのことをよく知り、時には助けあうなどの関係性が、既にあることがうかがえます。
完成して間もないちっちゃい辻堂で、なぜこのような関係性がつくれるのでしょうか?
その背景には、庭を介して行われる日常的な交流ほか、隔週で行われる住人同士の食事会や、庭で焚火をしたり、ワークショップをしたりと、集まり、喋り、一緒に作業をする・・そんな時間の共有が関係性をつくるのに役立っていると考えられます。
◆外に出れば誰かがいる安心感
また、住人であるシングルマザーの方に話を聞いてみると、「子どもと二人だとどうしても煮詰まってしまうけど、外に出てみると誰かがいて、挨拶をしたり会話ができる。それだけで本当に救われる」と話していました。
ここに引っ越す前は誰とも繋がっていない暮らしに強い危機感を覚えていたということ。3歳の息子が、みんなに可愛がってもらっている様子を見て、「ここならやっていける」と思えたそうです。
これはシングルマザーだけではないでしょう。たとえ二人親であったとしても、家族だけに閉じ込められた孤立した子育ては、心身の負担も大きく、ときに虐待の要因にもつながります。子どもを預かるなど直接的な子育て支援ではなくても、「外にいれば誰かと会える」という安心をあたえる環境づくりが、現代の子育て支援において大きな意味を持つと感じました。
シェアすることで、より豊かに暮らす
この土地の地主であり、プロジェクトを立ち上げた大家の石井光さんは「ちっちゃい辻堂」に対して、強い思いを持っています。
経済的な利益だけを追求すれば、庭は不要、このスペースに住居をもっと増やした方が収入は増えます。ですが、石井さんは100年先の辻堂を想像して作りすぎないこと、最小単位でゆたかに暮らしていく方法を考え、試行錯誤の上こうした住まいを作りました。
もちろん、赤字ではやっていけませんので、家賃は住戸の広さの割に高めの設定になっています。それでもこの庭を含めた空間や暮らしのコンセプトにひかれた人びとが、ちゃんと集まり、暮らしをつくりはじめています。
何かをシェアすることで、より豊かな暮らしができること、より豊かな繋がりを持つことができることを体現したのがこの「ちっちゃい辻堂」です。シェアすることで一世帯では持てないような広い庭を手に入れることができて、その庭を介して繋がりを作ることができ、つながりによって日々の安心感、心のゆとりも手に入れることができる・・
ちっちゃい辻堂は、住宅や暮らしに関する新しい選択肢や可能性を示してくれているように感じました。
(慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 福澤涼子)